Published On: 2024年11月3日Categories: 特許権・実用新案権の取得By
ビジネスモデル特許とは

ビジネスモデルそのものについて、特許を取得することはできません。しかし、ビジネスモデルを実施するにあたって技術的な工夫がある場合、これについて特許が取得できる可能性があります。これを、通称「ビジネスモデル特許」などと言います。

では、ビジネスモデル特許を取得するには、どのような要件を満たす必要があるのでしょうか?また、ビジネスモデル特許を取得するメリットは、どのような点にあるのでしょうか?

今回は、ビジネスモデル特許の概要や要件、取得のメリットや注意点などについて、弁理士がくわしく解説します。

ビジネスモデル特許とは

ビジネスモデル特許は、特許法で定義された正式な用語ではありません。特許の種類が「技術的創作」、「ビジネスモデル」などと分かれているわけではないため、誤解のないようご注意ください。

ビジネスモデル特許は通称名であり、特許庁のホームページ内の「ビジネス関連発明の最近の動向について」では、「ビジネス関連発明」として紹介されています。このウェブサイトによると、ビジネス関連発明とは、「ビジネス方法がICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を利用して実現された発明」です。

ビジネス関連発明

つまり、「ビジネスモデル」との用語から一般的に想起されるビジネスの仕組みそのものについて特許が取得できるわけではありません。通常の特許と同じく「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの(特許法2条1項)」である必要があり、これをビジネスの方法に活かしているものがビジネスモデル特許です。

ビジネスモデル特許の近年の動向

ビジネスモデル特許(ビジネス関連発明)に関する近年の動向について、特許庁のホームページで紹介されています。

これによると、2000年に出願ブームが起こり、この年におけるビジネス関連発明を対象とする特許出願の件数は約22,000件でした。その後いったん下火となり2011年には年間約5,000件にまで減少したものの、その後は徐々に増加へと転じ、2021年には約13,000件となっています。

ビジネスモデル特許の近年の動向

画像引用元:ビジネス関連発明の最近の動向について(特許庁)

しかし、後ほど解説するとおりビジネスモデル特許を取得するには、さまざまな要件を満たさなければなりません。要件をすべて満たした場合に特許査定がされる(つまり、特許の取得ができる)のに対し、要件を満たさない出願は、拒絶査定がなされます。

2000年は出願数こそ多かったものの特許査定率は非常に低く、10%でした。一方、出願件数が少なかった2011年の特許査定率は、67%です。

しかし、出願件数と特許査定率は、反比例するわけではありません。その後の2021年では出願件数も多かったものの、特許査定率も73%と高くなっています。

出願件数と特許査定率

画像引用元:ビジネス関連発明の最近の動向について(特許庁)

これは、2000年頃は「ビジネスモデル特許」を正しく理解しないまま出願した者も多かったことに対し、2021年頃になると正しい理解が広がり、内容を精査したうえで出願するケースが増えたものと推測できます。

ビジネスモデル特許の出願をご検討の際は、弁理士へご相談ください。

ビジネスモデル特許に関する主な事例

ビジネスモデル特許に関する主な事例には、どのようなものがあるのでしょうか?ここでは、ビジネスモデル特許の代表的な事例を3つ紹介します。

いきなりステーキ!のステーキ提供システム

1つ目は、いきなりステーキ!のステーキ提供システムです(特許番号第5946491号、出願日:2014年6月4日、特許権者:株式会社ペッパーフードサービス)。

これは、ステーキの提供システムに関する発明であり、顧客を案内したテーブル番号が記載された札と顧客の要望に応じてカットした肉を計量する計量器、その顧客の要望に応じてカットした肉を他の顧客のものと区別する印を備えることを特徴するものなどです。

この出願は、2016年6月10日に特許登録がされました。

クラウドコンピューティングによる自動仕訳システム

2つ目は、クラウドコンピューティングによる自動仕訳システムです(特許番号第5936284号、出願日:2014年7月14日、特許権者:フリー株式会社)。

これは、会計記帳について、サーバにより取り込んだウェブ明細データを取引ごとに識別し、各取引をその取引内容の記載に基づいて特定の勘定科目に自動的に仕訳するものです。

この出願は、2016年に特許登録がされました。

TSUTAYAのレンタル商品返却システム

3つ目は、TSUTAYAのレンタル商品返却システムです(特許番号第4854697号、出願日:2008年3月31日、特許権者:カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)。

これは、レンタル商品またはその収納ケースに固有の識別子を付与するための識別子記録体を設け、その識別子と関連づけてレンタル店が貸し出しデータを認証する手段と、配送者の管理下にある回収箱に投函されたレンタル商品が配送者に回収された際に識別子と関連づけて回収を認証する手段などです。これにより、配送者を通じてレンタル商品を返却することが可能となります。

この出願は、2011年に特許登録がされました。

ビジネスモデル特許の主な要件

ビジネスモデル特許を取得するには、どのような要件を満たす必要があるのでしょうか?ここでは、特許を受けるための主な要件について解説します。

しかし、ある発明が特許取得の要件を満たすか否か、自社で判断することは容易ではないでしょう。ビジネスモデル特許が取得できるかどうか確認したい場合には、弁理士へご相談ください。弁理士へ相談することで特許取得の可否をあらかじめ想定することが可能となり、無駄な出願を避けやすくなります。

発明であること

1つ目の要件は、発明であることです。

特許は発明を保護する制度であり、発明でないものは特許を受けることができません。特許法における「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」です(同2条1項)。

たとえば、次のものは「発明」ではないため、特許を受けられないとされています。

  • 自然法則自体:「エネルギー保存の法則」など
  • 単なる発見であって創作ではないもの :X線自体の発見など
  • 自然法則に反するもの :永久機関など
  • 人為的な取り決めなど自然法則を利用していないもの:ゲームのルール自体など
  • 技能など、技術的思想ではないもの:フォークボールの投球方法など

一般的に想起されるビジネスモデルは原則としてこの「発明」には該当しないため、特許を取得することはできません。ビジネスモデル特許を取得するには、先ほど解説したとおり、ビジネス方法がICTを利用して実現された発明であることが必要です。

参照元:

産業上の利用可能性があること

2つ目の要件は、産業上の利用可能性があることです。

特許法はそもそも、「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与すること」を目的としています(同1条)。そのため、理論上は可能でも現実的に実現できないアイデアなど産業上利用できない発明では、特許を取得することができません。

新規性があること

3つ目の要件は、新規性があることです。

特許を取得するには新規性が必要であり、次の発明は特許を取得できません(同29条1項)。

  • 特許出願前に日本国内または外国において公然知られた発明
  • 特許出願前に日本国内または外国において公然実施をされた発明
  • 特許出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明、または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明

たとえば、特許出願の前にその発明がテレビや雑誌で紹介された場合や、自社のSNSやホームページに投稿した場合などには、この新規性要件を満たせず拒絶査定となる可能性が高くなります。

そのため、特許出願を予定している場合には、通常以上に情報管理に注意しなければなりません。

進歩性があること

4つ目の要件は、進歩性があることです。

その技術分野における通常の知識を有する者が、特許出願前に公知の発明に基づいて容易に発明できるものである場合には、特許を受けることができません(同29条2項)。公知の発明を少し改良したり付け加えたりした程度では進歩性要件を満たせず、拒絶査定となる可能性が高いでしょう。

先願であること

5つ目の要件は、先願であることです。

特許は先願主義を採っており、すでに他社が同様の発明について特許を受けている場合には、自社が特許を受けることはできません。なお、「出願」の順位が重要なのであり、「発明した」順位ではないことに注意が必要です。

たとえ自社が先に考案していたとしても、他社に先に出願されてしまうと、自社が特許を受けることはできません。

公序良俗を害さないこと

6つ目の要件は、公序良俗を害さないことです。

公の秩序や善良の風俗、公衆の衛生を害するおそれがある発明は、たとえ他の要件をすべて満たしていたとしても、特許を受けることができません(同32条)。

ビジネスモデル特許を取得するメリット

ビジネスモデル特許を取得することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、主なメリットを3つ解説します。

  • 他社による模倣を避けられる
  • ライセンス収入を得やすくなる
  • 対外的なアピールとなる

他社による模倣を避けられる

ビジネスモデル特許を取得することで、その発明を他社が無断で実施することができなくなります。

仮に無断で模倣された場合には、侵害行為をやめるよう請求する「差止請求」や損害賠償請求の対象となるほか、相手が刑事罰の対象となります。そのため、他社による模倣を避けられ、他社との差別化をはかりやすくなります。

ライセンス収入を得やすくなる

ビジネスモデル特許を取得することで、ライセンス収入を得やすくなります。

先ほど解説したように、特許登録がされたビジネスモデルを無断で模倣すれば、法的措置の対象となります。そのため、他社がその技術を適法に実施するためには、特許権者から許諾を得るほかありません。

特許権者は他社への許諾をしない選択もできる一方で、フランチャイズ展開などにより特許技術をライセンスして収入を得る選択も可能となります。

対外的なアピールとなる

ビジネスモデル特許を取得することは、対外的なアピールにもつながります。ビジネスモデル特許の取得は先鋭的な企業であるとのメッセージともなるためです。

また、特許権は無体財産権に該当し貸借対照表上の資産を増加させる効果もあるため、投資や融資の枠が拡大する効果も期待できます。

ビジネスモデル特許のデメリット・注意点

ビジネスモデル特許の取得には、デメリットもあります。最後に、ビジネスモデル特許を出願する主なデメリットと注意点を3つ紹介します。

  • 特許内容が公開される
  • すぐに権利化できるわけではない
  • 最適な特許出願は容易ではない

特許内容が公開される

ビジネスモデル特許を出願すると、出願から1年6か月後に出願内容が公開されます(同64条)。特許が取得できた場合のみならず、拒絶査定がなされた際にも公開されることに注意しなければなりません。

出願内容が公開されても、無事に特許査定がなされれば他社がこれを無断で模倣することはできないため、大きな問題とはならないでしょう。

一方で、拒絶査定がされた場合には、特許権として保護を受けられないにも関わらず自社のビジネス関連発明の内容が他社に知られてしまうこととなります。ビジネスモデル特許を出願しようとする際は、この点をよく理解しておかなければなりません。

すぐに権利化できるわけではない

ビジネスモデル特許を出願しても、すぐに権利化されるわけではありません。拒絶査定がなされれば特許を受けることはできないほか、特許査定がなされる場合であっても出願から登録までには1年以上を要することが一般的です。

ただし、特許出願には「スーパー早期審査」制度が設けられており、2024年現在でも試行中です。これを活用することで出願の平均審査順番待ち期間を平均1か月以下へと短縮することが可能となり、半年程度で権利化できる場合もあります。

ただし、スーパー早期審査を受けるためには、次の要件をいずれも満たさなければなりません。

  1. 次のいずれかに該当すること
    1. 「実施関連出願」かつ「外国関連出願」である
    2. スタートアップによる出願であって「実施関連出願」である
  2. スーパー早期審査の申請前4週間以降になされたすべての手続をオンライン手続とする出願であること

スーパー早期審査を活用できれば審査期間の大幅な短縮が見込まれるものの、すべての出願が対象となるわけではありません。実際にビジネスモデル特許を出願しようとする際は、弁理士へ相談したうえで、最適な手続きを選択するとよいでしょう。

参照元:令和2年度に特許庁が達成すべき目標について(経済産業省)

最適な特許出願は容易ではない

ビジネスモデル特許を自社で出願することは、不可能ではありません。しかし、自社にとって最適な範囲の特許出願をすることは容易ではない点には注意が必要です。

たとえば、自力で特許は取得できたとしても、請求の範囲に余分な一言が記載してしまったために、価値のない特許となるケースは少なくありません。不要な限定を付けることでその特許が非常に使いづらいものとなると、特許の価値が下がるどころか無価値、もしくはマイナスの価値となるおそれもあります。なぜなら、現実的に「使えない」特許を持っていても、継続的に特許年金を支払う必要があるためです。

特許出願をして特許を取得することがゴールであれば、自力での出願も不可能ではありません。しかし、最終目標は特許の取得ではなく、その特許を実施して収益を得たり、他社にライセンスして収益を得たりすることであるはずです。

このような目的を実現したいのであれば、ビジネスモデル特許の出願は弁理士のサポートを受けて行うべきでしょう。弁理士に依頼することで、包括的に漏れのない権利取得が可能となります。

まとめ

ビジネスモデル特許を取得する要件や事例を紹介するとともに、ビジネスモデル特許を取得するメリットや注意点などを解説しました。

ビジネスモデル特許とは、ビジネス方法がICTを利用して実現された発明です。ビジネスモデル特許を取得することには、他社による模倣を避けられるなどのメリットがあります。

一方で、出願内容が公開されることなど、注意点も少なくありません。ビジネスモデル特許の取得をご検討の際は、あらかじめ弁理士へ相談し、出願することが適切であるか否かも含めて慎重に検討するとよいでしょう。

中辻特許事務所ではビジネスモデル特許の出願についても豊富な実績を有しており、ご依頼者様の目指す未来をともに見据え、特許出願をサポートしています。ビジネスモデル特許の取得をご希望の際や自社の知財戦略について相談できる弁理士をお探しの際は、中辻特許事務所までお気軽にお問い合わせください。