無駄な特許申請を避けたり、知らず知らずのうちに他者の特許権を侵害したりする事態を避けるためには、特許調査が不可欠といえます。
特許調査にはどのような種類があるのでしょうか?また、特許調査をする際は、どのような点に注意すればよいのでしょうか?
今回は、特許調査の種類やそれぞれの概要、特許調査をするポイントや注意点などについて、弁理士がくわしく解説します。
特許調査とは
特許調査とは、さまざまな目的から、すでに出願されている特許について調べることです。
登録されている特許の情報は、すべて特許庁から公開されています。そのため、公開されている情報を調べることで、「どのような発明が特許として登録されているか」「その特許権は誰が有しているか」などがわかります。
これらの情報を知ることで、自社の発明が特許を受けられそうか否かの見通しが立てやすくなるほか、他者の特許権を侵害する事態を避けやすくなります。
特許調査は自社で行うこともあるものの、漏れのない特許調査や情報の読み解きは容易ではありません。そのため、知的財産の専門家である弁理士に依頼して行うことが多いでしょう。
【目的別】特許調査の種類
特許調査は、その目的により主に4つに分類できます。ここでは、それぞれの特許調査について概要を解説します。
- 技術動向調査
- 先行技術調査
- 侵害予防調査
- 無効資料調査
技術動向調査
技術動向調査とは、自社が取り組もうとしている(または、すでに取り組み途中である)研究について、関連する公知技術の有無を調べるものです。「技術収集調査」と呼ばれることもあります。
技術動向調査の目的は、重複研究(いわゆる「車輪の再発明」)を回避することです。事前の特許調査を徹底することで、すでに公知となっている技術について自社で研究する事態を避けることが可能となり、時間やコストが無駄となる事態を避けられます。
また、すでに公知となっている技術の場合、せっかく自社で研究をしても特許を受けられる見込みはなく、この点からも無駄の回避につながります。
先行技術調査
先行技術調査とは、自社が特許出願をしようとする発明が既に他者によって出願されていないかどうかを調べるものです。特許の出願前に行うものであることから、「出願前調査」とも呼ばれます。上記の技術動向調査と重なる面もありますが、特許出願を企図している場合に行うのが先行技術調査であり、主として特許文献が対象になります。技術動向調査は、現状の技術レベルを把握するために定期的に行うものであり、論文、技術文献など幅広く収集します。
先行技術調査の目的は、無駄な出願を避けることです。
特許は先願制を採用しており、他者がすでに同様の発明について特許を受けている場合、自社が後から出願をしても特許を受けられる見込みはありません。このような場合に出願をしても、費用や労力が無駄になってしまいます。
また、発明の内容によっては、自社による発明の一部についてすでに特許が取得されていることが事前に判明した場合、これを避けた部分についてのみ特許を出願することなども検討できます。
なお、先行技術により、どこまでが公知技術であり、どの部分からが自社のオリジナルであるかを把握することができます。また、自社の発明が先行技術とほぼ同一である場合には、さらに検討を重ねて差別化することもできます。
侵害予防調査
侵害予防調査とは、製品を製造したり販売したりするにあたって、これらの障害となり得る他者の権利がないか否かを調べるものです。他者の権利を調べる調査であることから、「権利調査」とも呼ばれます。
侵害予防調査の目的は、他者の権利を侵害する事態を避けることです。
自社が特許出願をするか否かを議論するよりも前に、他社の特許権を侵害する可能性があるか否かを把握することは極めて重要です。特許出願に消極的な企業であっても、この点は避けて通ることができません。他者の特許権を侵害すれば、他者が特許権を有していることを知っていた(「故意」といいます)か否かにかかわらず、法的措置の対象となるからです。
具体的には、権利者から次の請求などがなされる可能性があります。
- 差止請求:侵害行為の停止や侵害行為によって組成した物の廃棄などの請求
- 損害賠償請求:侵害行為によって生じた損害の賠償の請求
- 信用回復措置請求:謝罪広告の掲載など、権利者の信頼を回復するための措置の請求
侵害予防調査を徹底することで、知らず知らずに他者の権利を侵害する事態を避けられ、トラブルの予防につながります。また、未然に侵害の可能性を確知することで、権利者から権利譲渡や実施許諾を受けられるよう交渉する道も開けます。
無効資料調査
無効資料調査とは、製品を製造したり販売したりするにあたってこれらの障害となり得る他者の権利の存在が判明した場合において、この特許権を無効とできる資料の有無を調べるものです。特に、他社から特許権侵害の警告を受けた場合に、対抗措置として無効審判を請求することが多いため、このような場合に徹底して無効資料調査が行われます。
特許権が設定登録されたとしても、審査官が審査時点で先行技術に基づく拒絶の論理構成をできないと判断した結果であり、その後に無効理由が判明したならば、無効になる可能性があります。一度登録を受けたからといって、絶対に揺るがないものではありません。
例えば、特許を受ける要件の一つに「新規性」があり、出願前に公知となっている発明については特許を受けることができません(特許法29条1項)。しかし、審査官がすべての公知情報を網羅的に調査することは現実的ではなく、実際には出願前に公知となっていた発明であっても特許を受けられる旨の判断(「特許査定」といいます)がなされる場合があります。
つまり、その発明が出願前に公知となっていた証拠を提示することで、特許を無効化できる余地があるということです。
そのため、自社の製品化や販売化の障害となり得る他者の特許権の存在が判明した場合に、その障害となる特許の無効化を検討する場合があります。障害となり得る他者の特許権を無効化できれば、自社における製品化や販売を安心して進めることが可能となります。
【特許調査の種類別】特許調査の注意点・ポイント
特許調査をする際は、どのような点に注意して行えばよいのでしょうか?ここでは、特許調査の種類ごとに、主な注意点とポイントを解説します。
技術動向調査の注意点・ポイント
技術動向調査の注意点とポイントは、主に次の2点です。
- 漏れについての考え方を整理する
- 分類軸や分類項目を明確化する
漏れについての考え方を整理する
1つ目は、「漏れ」についての考え方を整理することです。
技術動向調査では、対象とする分野が広範にわたる場合も少なくありません。この場合には、調査に漏れが生じやすくなります。
しかし、技術動向調査ではその性質上、必ずしも網羅的な調査が必要であるとは限りません。網羅的な調査までは不要である分野にまで漏れのない調査を試みると、無駄な労力やコストを要してしまうおそれがあります。
そこで、技術動向調査を始める前に、漏れを許容するか否かや、特に漏れを生じさせたくない重点分野がある場合にはその分野などを定めておくとよいでしょう。これにより、目的に応じた効率的で無駄のない調査がしやすくなります。
分類軸や分類項目を明確化する
2つ目は、分野軸や分類項目を明確化することです。
技術動向調査において、単に公報を抽出しただけでは技術開発への判断がしづらくなります。そうではなく、たとえば利用技術を産業別に整理するなどすることで、調査の結果をより経営判断に活かしやすくなるでしょう。
そのため、技術動向調査を開始する前に、自社で調査結果を活用しやすいよう分類軸や分類項目を定めておくことをおすすめします。
先行技術調査の注意点・ポイント
先ほど解説したように、先行技術調査は特許出願の前段階として行う調査です。そのため、特許を受けるために必要な「新規性」や「進捗性」の観点から調査結果を明確とすることが求められます。
特許出願の障害となり得る他者の特許が見つかったとしても自社とまったく同じ発明が特許登録をされているケースは想定しづらく、多くは「似ている」ものでしょう。自社の発明と類似する点がある他者の特許が存在する場合には、新規性や進捗性の観点から、これが自社における特許出願の障害となり得るか否かを検討しなければなりません。
他者による特許発明と自社の発明との違いを課題(効果や目的)に従って整理することで、新規性や進歩性の判断がしやすくなります。
侵害予防調査の注意点・ポイント
侵害予防調査の注意点と主なポイントは、主に次の2点です。
- 調査対象製品の技術構成を具体化する
- 新しい技術に限定しない
調査対象製品の技術構成を具体化する
1つ目は、調査対象製品の技術構成を具体化することです。
調査対象である製品の技術構成が具体的となっていなければ、的確な侵害予防調査は困難です。調査対象である自社製品の課題(効果や目的)や技術構成を具体化することで、侵害の可能性のある特許を効果的に洗い出しやすくなります。
新しい技術に限定しない
2つ目は、調査対象を新しい技術に絞らないことです。
すでに広く発売されている技術の場合、特許の期限が切れているなどして問題なく実施できると考えるかもしれません。しかし、そのような技術であっても、その製品を製造している企業が特許権を有していたり、権利者から正式にライセンスを受けて実施したりしている可能性もあります。
そのため、「広く実施されているから問題ない」などと思い込むのではなく、そのような技術も含めて漏れなく調査をするべきでしょう。
無効化調査の注意点・ポイント
無効化調査では、構成や関連技術分野、課題を抜き出したうえで行うとよいでしょう。
主な確認方法は、それぞれ次のとおりです。
- 構成:対象となる請求項から抜き出す
- 関連技術分野・課題:明細書から整理する
これらを抜き出し、整理することで対象の技術について理解がしやすくなるほか、調査方針の決定や検索式の作成の拠りどころともなります。
特許調査の種類別に見た検索範囲
調査すべき範囲は、特許調査の種類によって異なります。ここでは、特許調査の種類ごとに見た一般的な検索範囲について解説します。
- 検索範囲が全文にわたるもの
- 検索範囲が請求項のみであるもの
検索範囲が全文にわたるもの
技術動向調査と先行技術調査、無効資料調査では、検索範囲は特許明細書の全体にわたります。これらの調査では請求項のみならず、実施例も確認も必要となるためです。
検索範囲が請求項のみであるもの
侵害予防調査の検索範囲は、請求項のみです。請求項の内容に従って付与されている特許分類を活用し調査範囲を絞り込むことで、効率的な特許調査が可能となります。
特許調査の種類から見た重視ポイント
特許調査で重視すべき点は、特許調査の種類によって異なります。ここでは、特に重視すべき点から特許調査の種類を分類します。
効率性を重視すべき特許調査
効率性を重視すべき特許調査は、先行技術調査です。
先行技術調査では出願しようとする発明が公知であるか否かを確認するだけでよく、発明に関連する先行技術を網羅的に捕捉する必要まではありません。また、調査の再現性なども不要です。
むしろ、調査にあまり時間をかけるよりも、調査の結果先行技術がなさそうであると判断できたら早期に出願することのほうが重要といえます。
網羅性を重視すべき特許調査
網羅性を重視すべき特許調査は、侵害予防調査と無効資料調査です。
侵害予防調査ではその性質上、調査に漏れがあれば他者の権利を侵害する危険性が生じます。そのため、より網羅的な特許調査が必要です。
また、無効資料調査ではある特許を無効化する必要があることから、出願時に確認されていないであろう資料を中心に重点的な調査が必要となります。
一般的に、その発明が属する特許分類については、登録査定の過程において審査官が調査している可能性が高いでしょう。一方で、その特許分類に類似する特許分類に、無効化の根拠となる文献などが存在する可能性があります。そのため、より範囲を広げた網羅的な調査が必要となります。
再現性を重視すべき特許調査
再現性を重視すべき特許調査は、侵害予防調査と無効資料調査です。
これらの特許調査では、一度調査をした内容について、後日さらに範囲を広げて調査をすべき必要性が生じる場合があります。その際、以前の調査について際限ができなければ、再度一から調査をする必要が生じて効率が悪くなります。
調査内容の再現ができれば、以前調査が及んでいない範囲に絞って調査をすることが可能です。
特許調査を弁理士に依頼して行うメリット
特許調査は、弁理士に依頼して行うことをおすすめします。弁理士は、特許など知的財産を専門とする国家資格です。最後に、特許調査を弁理士に依頼して行う主なメリットを解説します。
- 自社でかける手間と時間を大きく削減できる
- 的確な特許調査が可能となる
- 特許出願についてアドバイスを受けられる
- 特許出願について代理してもらえる
自社でかける手間と時間を大きく削減できる
1つ目は、自社でかける手間と時間を大きく削減できることです。
特許調査には、相当の時間と労力がかかります。自社だけで特許調査を行おうとすれば、他の業務に割くべきリソースを圧迫する事態ともなりかねません。
弁理士に依頼することで、自社の手間や時間の削減が可能となります。
的確な特許調査が可能となる
2つ目は、的確な特許調査が可能となることです。
先ほど解説したように、特許調査には目的ごとに主に4種類に分類でき、その種類によって重視すべき点などが異なります。また、特に侵害予防調査や選考技術調査において漏れがあれば、権利者から特許権侵害警告が届いてトラブルに発展したり、せっかく出願した特許が拒絶査定となったりするなど、大きな影響が及びかねません。
的確な特許調査には専門的な知識と経験が不可欠であり、自社だけで行うハードルは高いでしょう。
弁理士に依頼して行うことで、漏れのない的確な特許調査がしやすくなります。
特許出願についてアドバイスを受けられる
3つ目は、特許出願についてアドバイスを受けられることです。
弁理士に依頼した場合、クライアントに指示されるままに出願書類を作成するだけではありません。どの発明について特許出願をするのか、また発明のうちどの部分について特許を出願するのかなど、企業の戦略に応じたアドバイスも可能です。
特許権は取得すること自体がゴールではなく、取得した特許権を活用してより事業を成長させたり商品開発に活かしたりすることが本来の目的であるはずです。そして、有用で価値のある特許となるか否かは、出願する発明の選定や範囲の設定などによって大きく左右されます。
特許調査の段階から弁理士にサポートを受けることで、自社にとってより価値の高い特許権が取得できる可能性を高めることが可能となります。
特許出願について代理してもらえる
4つ目は、特許出願について代理してもらえることです。
弁理士は知的財産の専門家であり、依頼することで特許出願について代理してもらうことが可能です。また、先ほど解説したように、単に技術を機械的に書類に落とし込むわけではありません。
弁理士はより特許査定に近づくよう検討したうえで書類を作成することから、特許権を取得できる可能性を高めることにつながります。
まとめ
特許調査の種類について概要を解説するとともに、特許調査の種類ごとのポイント・注意点などを解説しました。
特許調査には、技術動向調査と先行技術調査、侵害予防調査、無効資料調査があります。特許調査の種類によって調査の目的が異なり、重視すべき点や調査範囲なども異なります。
自社のみで的確な特許調査をすることは容易ではないため、特許調査は弁理士のサポートを受けて行うとよいでしょう。弁理士に依頼することで、その調査の目的に応じた的確で漏れのない調査がしやすくなります。
中辻特許事務所ではクライアント様の知的財産獲得を全力でサポートしており、特許調査の段階からのご相談が可能です。特許調査や自社の知財戦略についても相談できる弁理士をお探しの際には、中辻特許事務所までお気軽にご相談ください。