Published On: 2024年11月5日Categories: 特許権・実用新案権の取得By
「アイデアだけ」でも特許権の取得は可能か

アイデア段階で特許権を取得することができれば、他社との交渉を初期段階から優位に進めやすくなる効果が期待できます。 むしろ、アイデア段階で特許出願を検討することは極めて重要です。発明は技術的思想だからです。

では、どのようにすれば、アイデア段階において特許権を取得できるのでしょうか?また、どのような要件を満たす必要があるのでしょうか?

今回は、アイデア段階における特許権の取得について、弁理士がわかりやすく解説します。

アイデア段階でも特許権の取得は可能?

結論からお伝えすると、アイデア段階であり発明が完成していなかったとしても特許権の取得は可能です。

ただし、特許権を取得するには、さまざまな要件を満たさなければなりません。

たとえば、次のアイデアでは特許の取得は困難です。

  • 実際に利用ができないアイデア
  • 理論的には可能であっても実現ができないアイデア
  • 産業上の利用を想定しておらず、個人的にのみ利用するアイデア

特許権を取得するための要件は後ほど説明しますが、実際のケースにおいて要件を満たすか否かの判断は容易ではありません。アイデア段階におけるスムーズな特許権の取得を目指す場合や無駄な特許出願を避けたい場合には、弁理士へご相談ください。また、弁理士に相談することにより、想定していない観点から有用なアドバイスを受けることができる場合があります。

アイデア段階で特許権を取得する要件

アイデア段階での特許出願であっても、特許権を取得するための要件は通常の特許出願と特に変わるところはありません。特許を取得する要件は、次のとおりです。

  1. 発明であること
  2. 産業上の利用可能性があること
  3. 新規性があること
  4. 進歩性があること
  5. 先願性を満たすこと
  6. 公序良俗を害さないこと

これらの要件について、それぞれ概要を解説します。アイデア段階での特許出願でお困りの際は、弁理士へご相談ください。

発明であること

1つ目の要件は、発明であることです。

そもそも特許とは発明を保護する制度であるため、発明でないものについて特許出願をしても、特許を受けることはできません。

「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」です(特許法2条1項)。たとえば、次のものは「自然法則を利用した」とはいないため、「発明」ではないと考えられます。

  • 「万有引力の法則」など、自然法則自体
  • 計算方法や経済法則など、自然法則ではないもの
  • いわゆる「永久機関」など、自然法則に反するもの

また、次のものは「技術的思想」ではないため、「発明」ではありません。

  • フォークボールの投球方法など、誰がやっても同じ結果を得られるものではないもの
  • 絵画や彫刻などの美的創造物

さらに、「創作」である必要があるため、たとえ素晴らしい発見であっても、天然物の単なる発見では特許を受けることができません。

このように、アイデア段階で特許を受けるには、まずはそのアイデアが「発明」である必要があります。

産業上の利用可能性があること

2つ目は、産業上の利用可能性があることです。

特許法は「発明を奨励し、もって産業の発達に寄与すること」を目的としています(同1条)。そのため、次のものなど産業上利用することができないアイデアでは、特許を受けることはできません。

  • 人の手術方法や治療方法、診断方法
  • 学術的・実験的のみに利用されるもの
  • 明らかに実施できないもの

アイデアで特許取得をする余地があるとはいえ、実現できないアイデアなどでは特許を受けられないことにご注意ください。

新規性があること

3つ目は、新規性があることです。

当然ながら、すでに特許を受けている他の特許と同じ特許は取得することができません。それだけではなく、特許出願前に公知となった発明についても特許を受けることができません(同29条1項)。

たとえば、次の場合などには「公知となった」と判断され、特許が受けられなくなる可能性が高いでしょう。

  • 自社のSNSやホームページで紹介した
  • テレビや雑誌で紹介された
  • その発明を使った商品が店頭で販売された

そのため、特許出願を予定している場合には、通常以上に情報管理に注意しなければなりません。

進歩性があること

4つ目は、進歩性があることです。

特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、既に公知となった発明に基づいて容易に発明できる場合、進歩性がないと判断されて特許を受けることはできません(同29条2項)。

つまり、もともと公知である発明を少し改良した程度のアイデアでは、特許を受けられないということです。

先願性を満たすこと

5つ目は、先願性を満たすことです。

特許権は排他独占的な権利であり、同じ内容の特許権を2者以上が同時に有することはありません。仮に2者以上が同様の内容で特許出願をした場合、優先されるのは「先に出願した者」です。

これを「先願主義」といいます。「先にアイデアを思い付いた者」や「先に製品化した者」ではないことにご注意ください。

そのため、特許取得の要件を満たす発明をしたら、たとえアイデア段階であっても、できるだけ早期に特許出願をすることをおすすめします。そのアイデアについて特許を受けるための要件を満たすか否か判断に迷う場合には、弁理士へお早めにご相談ください。

公序良俗を害さないこと

6つ目は、公序良俗を害さないことです。

他の要件をすべて満たす発明であったとしても、公の秩序や善良の風俗、公衆の衛生を害するおそれがある発明は特許を受けることができません(同32条)。

アイデアで特許を取得する主なメリット

製品の完成を待たず、アイデア段階で特許を取得するメリットはどのような点にあるのでしょうか?ここでは、主なメリットを6つ紹介します。

  • 他社との交渉を有利に進めやすくなる
  • アイデアが無断で模倣される事態を避けられる
  • 先に出願されてしまいそのアイデアが使えなくなる事態を避けられる
  • マーケットの独占が可能となる
  • ライセンス契約により収益機会を拡大できる
  • 投資枠拡大の効果が期待できる

他社との交渉を有利に進めやすくなる

アイデア段階で特許を出願する最大のメリットは、他社との交渉を有利に進めやすくなることです。

先ほど解説したように、特許権は先願主義であることから、先に特許出願さえしてしまえば、他社はもはやこれと類似した特許を取得することができません。そのため、特許出願中の段階であっても他社にとっては脅威となり、交渉を有利に進めやすくなります。

アイデアが無断で模倣される事態を避けられる

特許を出願した場合、他社はこのアイデアを無断で模倣することはできなくなります。そのため、その後の開発に時間を要する場合であっても、アイデア段階で特許を出願しておけば、その間に他社が類似品を開発する事態を避けることが可能となります。

先に出願されてしまいそのアイデアが使えなくなる事態を避けられる

先ほど解説したように、特許権は先願主義です。たとえ自社が先に開発に成功したアイデアであっても、他社に先に出願されてしまえば、自社は特許を受けることはできません。

アイデア段階で特許を出願することで出願のタイミングを早められれば、その分だけ他社に先に出願される事態を避けやすくなります。

なお、他社による出願前からその発明を実施している場合には「先使用権」があるため、特許権者から許諾を受けなくても発明の実施が可能です。

ただし、先使用権を主張するには出願前からの発明実施を客観的に立証しなければならず、このハードルは低いものではありません。特に、他社による出願段階で未だアイデア段階であり商品化していなかったのであれば、先使用権の主張も困難でしょう。

マーケットの独占が可能となる

特許権は、排他独占権です。特に、その分野の開発において必須となる基本特許を取得できれば他社による参入を避けることができ、マーケットの独占が可能となります。

ライセンス契約により収益機会を拡大できる

自社が特許権を有している場合、他社がその特許を実施するには、特許権者である自社の許諾を得る必要が生じます。特許権者としては特許の実施を一切禁止する選択肢のほか、他社によるライセンスにより収益を得る選択肢も得られ、収益の機会を拡大できます。

投資枠拡大の効果が期待できる

製品開発や製品の量産化には莫大な費用がかかるため、できるだけ多くの資金を確保したいことでしょう。

アイデア段階で特許権を取得することで、投資家による投資枠や金融機関による融資枠を拡大させる効果が期待できます。なぜなら、特許権は無体財産権という資産であり、資産が多いほど投資枠や融資枠が増える傾向にあるためです。

アイデア段階で特許出願をする際の注意点

アイデア段階で特許出願をすることには、注意点もあります。ここでは、主な注意点を3つ解説します。

  • 製品化段階で仕様が変わる可能性がある
  • 特許が取れなくてもアイデアが公開されてしまう
  • 弁理士のサポートを受けるのがベター

実際に特許出願をしようとする際は弁理士へ相談したうえで、出願の範囲やタイミングなどを慎重に検討することをおすすめします。

製品化段階で仕様が変わる可能性がある

アイデア段階で特許を取得したとしても、製品化段階で仕様が変わる可能性があります。しかし、すでに権利化されている場合、特許技術の追加や変更はできません。

この場合は、国内優先権制度を活用して対応することとなります(同41条)。国内優先権制度とは、すでに権利化した特許とこれに関連する新たな発明とを一連の発明として、包括的に権利化する制度です。ただし、国内優先権制度が活用できるのは、元の発明を出願してから1年以内に限定されます。

この期間を過ぎていればもはや国内優先権制度での対応はできず、新たな発明として出願するほかありません。しかし、特許出願から1年6か月が経過すると、その特許の内容が公開されます(同64条)。

アイデア段階で出願した特許がすでに公開されている場合、新たに追加したい発明が新規性要件などを満たさず特許を受けられない可能性がある点に注意しなければなりません。

特許が取れなくてもアイデアが公開されてしまう

特許出願の内容は、特許が取得できたか否かを問わず、出願から1年6か月が経過すると公開されます(同64条)。つまり、特許が取得できなかったにも関わらずアイデアが公開される可能性があるということです。その結果、競合他社などにアイデアが知られ、模倣されてしまうおそれが生じます。

特許出願をする際は、出願内容が公開されることを理解したうえで出願するか否かを検討する必要があるでしょう。

弁理士のサポートを受けるのがベター

適切な範囲での特許申請を自社で行うことは、容易ではありません。また、特許申請に時間を要してしまえば、その間に他社に出願されてしまい、特許が取得できないおそれも生じます。

特に、アイデア段階での特許出願では、製品化段階で仕様が変わる可能性も見越して、出願する発明の範囲やタイミングなどを慎重に検討しなければなりません。そのため、アイデア段階での特許出願は、弁理士のサポートを受けて行うことをおすすめします。

アイデアの特許取得を弁理士に依頼する主なメリット

弁理士は、特許出願の代理や知財戦略の支援などを行う、知的財産の専門家です。アイデア段階での特許取得を弁理士へ相談することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?

最後に、アイデア段階での特許出願を弁理士に依頼する主なメリットを、4つ解説します。特許出願について弁理士のサポートを受けるメリットは非常に大きいものであるため、お困りの際はお気軽にご相談ください。

  • 取得すべき特許が明確になる
  • 第三者の立場でアイデアの評価や補強ができる
  • 調査や出願などの手続きをすべて任せられる
  • 拒絶理由通知の対応も任せられる

取得すべき特許が明確になる

弁理士へ相談することで、取得すべき特許が明確になります。取得すべき特許はその特許の実施を見越して、過不足なく的確に選定しなければなりません。

特許を取得しようとする発明の範囲が広すぎると、特許が受けられない可能性が生じるほか、後の仕様変更に対応しづらくなります。一方で、特許を受けようとする範囲が狭すぎれば、製品開発に必要な範囲がカバーしきれないかもしれません。

弁理士のサポートを受けることで取得すべき特許が明確となり、無駄な出願をしてしまう事態や特許に不足が生じる事態を避けやすくなります。

第三者の立場でアイデアの評価や補強ができる

弁理士のサポートを受けることで、第三者の立場でアイデアの評価や補強を受けることが可能となります。

自社の発明について、特許取得の立場から自社で適正に評価し過不足のない内容で特許出願をすることは容易ではありません。自社で開発をする場合、特許取得のために発明をするというよりは需要の高い製品の開発を目指してその過程で特許発明が生まれるという過程を辿ることが自然であるため、特許出願にあたり過不足が生じるのは当然のことでしょう。

弁理士に依頼することで、特許取得の観点からアイデアの評価や補強を受けることが可能となります。

調査や出願などの手続きをすべて任せられる

弁理士は、特許出願前における先行技術の調査から出願手続きまで、特許出願に関するすべての手続きを代理することが可能です。そのため、弁理士へ依頼することで煩雑な手続きや調査に時間を割かれづらくなり、自社の本業にリソースを投入しやすくなります。

拒絶理由通知の対応も任せられる

特許出願がそのまま認められるとは限らず、特許庁から「拒絶理由通知」が届くことも珍しくありません。

拒絶理由通知とは、特許を受けられない理由があるとして特許庁からなされる通知です。この拒絶理由通知を受け取った後何もしなければ、拒絶査定がなされます。

一方で、拒絶理由通知が送付された段階では、まだ「特許が受けられない」と決まったわけではありません。意見書を提出して異議を述べたり出願書類を補正したりすることで、特許が受けられる可能性もあります。

弁理士へ特許出願を依頼した場合、拒絶理由通知への対応までを一貫して任せることができるため安心です。

まとめ

アイデア段階における特許取得の可否や特許取得の要件、アイデア段階で特許出願をするメリットや注意点などを解説しました。

アイデア段階であっても、特許を取得することは可能です。ただし、「産業上の利用可能性があること」や「新規性があること」など、さまざまな要件を満たさなければなりません。また、アイデア段階で特許出願をする際は、製品化段階における仕様変更などへの対応について注意を払う必要があります。

そのアイデアについて特許取得ができるかどうか、明確に判断することは容易でありません。また、今後の製品化を踏まえ的確な範囲で特許出願をすべきであるものの、これを自社だけで行うことは困難でしょう。的確な範囲で特許出願をして、今後の事業発展につなげるためには、弁理士のサポートを受けるのがおすすめです。

中辻特許事務所では長年の経験を活かし、アイデア段階での特許取得を的確にサポートします。アイデア段階での特許取得をご希望の際や、知財戦略についてサポートを受けられる弁理士をお探しの際は、中辻特許事務所までお気軽にご相談ください。