「ソフトウェア特許」は、これまで多く出願されています。しかし、ソフトウェア特許については誤解も少なくありません。そもそも、ソフトウェア特許とはどのような特許なのでしょうか?また、ソフトウェア特許を取得するのは難しいのでしょうか?
今回は、ソフトウェア特許の概要やソフトウェア特許を取得する要件、ソフトウェア特許を出願する際の注意点などについて弁理士がくわしく解説します。
ソフトウェア特許とは
ソフトウェア特許とは、コンピュータプログラムに関する発明を保護の対象とする特許です。
勘違いしている方も多いものの、通常の「特許」と別建てで「ソフトウェア特許」という制度があるわけではありません。また、特許法において「ソフトウェア特許」という用語もありません。特許のうち、コンピュータプログラムに関する発明を保護するものを、特に「ソフトウェア特許」と呼んでいるということです。
なお、コンピュータプログラムに関する発明が「方法」の発明として特許され得ることが日本特許庁の審査基準に明示されたのは、1975年のことです。日本においては、1990年代になってからソフトウェア関連特許が広く認知されることとなりました。
参照元:ソフトウェア特許入門(特許庁)
システム特許との違い
「システム特許」も、ソフトウェア特許と同じく特許法上の分類や用語ではありません。システム特許とはコンピュータシステムに関連する技術の特許であり、ソフトウェア特許の一つの分野であると整理できます。
ビジネスモデル特許との違い
「ビジネスモデル特許」とは、あるビジネスモデルを実施するために必要となる技術的な発明を対象とする特許です。これも、特許法上の用語や分類などではありません。
なお、あくまでも技術的な発明が特許の対象となるのであり、ビジネスモデルそのものが特許の対象となるわけではないことに注意が必要です。
ビジネスモデル特許とソフトウェア特許とは、重なる場合もあります。たとえば、あるビジネスモデルを実現するために不可欠なコンピュータプログラムについて特許を受けた場合、この特許は「ビジネスモデル特許」でもあり「ソフトウェア特許」でもあるということです。
ソフトウェア特許を取得する要件
ソフトウェア特許を取得するには、どのような要件を満たせばよいのでしょうか?
先ほど解説したように、ソフトウェア特許は独立した特許制度ではなく、特許を受ける要件は一般的な特許と異なるものではありません。ここでは、特許を受けるための要件について解説します。
- 「発明」であること
- 産業上の利用可能性があること
- 新規性があること
- 進歩性があること
- 先願であること
- 公序良俗を害さないこと
とはいえ、ソフトウェアに関する自社の発明がこれらの要件を満たしているか否か、自社だけで判断することは難しいでしょう。無駄な特許出願を避け的確な特許を取得するため、実際にソフトウェア特許を出願しようとする際は、弁理士にご相談ください。
「発明」であること
1つ目は、「発明」であることです。
特許は発明を保護する制度であり、発明でなければ特許権を取得することはできません。特許法上の「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものです(特許法2条1項)。
たとえば、次のものは特許法上の「発明」ではないとされています。
- 「自然法則の利用」ではないもの:計算法則・遊戯方法など「自然法則でないもの」、永久機関など「自然法則に反するもの」、万有引力の法則など「自然法則そのもの」など
- 「技術的思想」ではないもの:絵画・彫刻、フォークボールの投球方法、データベースなど
- 「創作」でないもの:エックス線の発見など
- 「高度」でないもの:日用品の考案など
「発明」に該当するソフトウェアは多いとはいえず、この点でハードルが高いといえるでしょう。
産業上の利用可能性があること
2つ目は、産業上の利用可能性があることです。
たとえ革新的な発明であったとしても、産業上の利用可能性がないものは特許を受けることができません。たとえば、次のものなどがこれに該当すると考えられます。
- 学術的・実験的のみに利用されるもの
- 実際上明らかに実施できないもの
- 人間を手術、治療、診断する方法
特許制度が、そもそも産業の発達に寄与することを目的としているためです(同1条)。
新規性があること
3つ目は、新規性があることです(29条1項)。
新規性とは、その発明が今までにない「新しいもの」であることです。次のものは新規性要件を満たさず、特許を受けることができません。
- 特許出願前に日本国内または外国において公然知られた発明
- 特許出願前に日本国内または外国において公然実施をされた発明
- 特許出願前に日本国内または外国において、頒布された刊行物に記載された発明や電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
たとえ自社による発明であったとしても、出願前に論文で公表した場合やテレビ・雑誌などの取材で公に知られることとなった場合、その発明を用いた製品を一般発売した場合などには、もはや特許を受けられなくなるため注意が必要です。
進歩性があること
4つ目は、進歩性があることです(同29条2項)。
その分野における通常の知識を持つ人であれば従来の技術から容易に考えつくような発明は進歩性がないとされ、特許を受けられないとされています。進歩性の要件については、審査時などに争点となることが少なくありません。
先願であること
5つ目は、先願であることです。
特許を取得するには、他者よりも早く出願しなければなりません。たとえ自社が先に発明したのだとしても、先に他者に特許出願をされてしまえば、もはや自社は特許を受けることができなくなります。
他者に先に出願されてしまわないよう、特に競争の激しい分野においては、一刻も早く先願することが必要です。
公序良俗を害さないこと
6つ目は、公序良俗を害するものではないことです。
他の要件をすべて満たす場合であっても、公の秩序や善良の風俗、公衆の衛生を害するおそれがある発明については特許を受けることができません。
ソフトウェア特許の取得は難しい?
ソフトウェア特許の取得が、他の特許と比較して特に難しいわけではありません。先ほど解説したように、要件も一般的な特許と同様です。
ただし、ソフトウェア特許を的確に出願するにはコンピュータに関する知識が必要であるため、弁理士によって得意・不得意が分かれやすい分野であることは確かでしょう。そのため、ソフトウェア特許の取得を希望する際には、ソフトウェア特許に関する知識と経験が豊富な弁理士にサポートを依頼することをおすすめします。
また、ソフトウェア特許に限らず、出願する発明の選定や範囲の設定などには、専門的な知識が必要です。自社の発展に寄与する有用なソフトウェア特許を取得したい場合は、無理に自社のみで行わず弁理士に依頼するのが近道といえます。
ソフトウェア特許出願の注意点
ソフトウェア特許を出願する際は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?ここでは、出願時の主な注意点を4つ解説します。
- 出願内容は公開される
- 日本で受けた特許は日本国内でのみ保護される
- 出願は「早い者勝ち」である
- 先に一般発売などをすると新規性要件を満たせなくなる
出願内容は公開される
ソフトウェア特許に限らず、特許は出願から1年6か月後に公開されます(特許法64条)。
特許登録を認める判断(「特許査定」といいます)がされた場合はもちろん、特許を受けられない「拒絶査定」がされた場合にも公開される点に注意しなければなりません。公開されれば、ライバル企業などを含めて誰もが出願内容を見ることが可能となるためです。
そのため、特に重要な発明については、特許出願をするか特許出願をせず技術を秘匿するか慎重に検討すべきです。少なくとも、その発明について特許査定がされそうか否かあらかじめ十分に検討したうえで、特許を受けられる可能性が低い場合には出願を見送るべきでしょう。
日本で受けた特許は日本国内でのみ保護される
ソフトウェア特許に限らず、日本の特許制度による保護範囲は日本国内のみです。日本の制度に基づいて特許を取得したとしても、これが海外でも通用するわけではありません。
そのため、海外進出を想定しているなど海外においても発明の保護を受けたい場合には、国ごとの制度に従って出願する必要があります。たとえば、アメリカで保護を受けたい場合は、アメリカの特許法に従って登録を受ける必要があるということです。
海外への出願は国内への出願よりもさらにハードルが高いため、まずは国際特許にくわしい弁理士へ相談することをおすすめします。
出願は「早い者勝ち」である
先ほども解説したように、特許は先願制を採用しています。これは出願の「早い者勝ち」であり、発明の前後などで判断されるものではありません。
仮にA社が先に発明していたとしても、後発のB社に先に出願されてしまうと、特許権の取得においてはB社に軍配が上がるということです。そのため、ソフトウェア特許の出願を予定している場合には、できるだけ早期に出願すべきです。
先に一般発売などをすると新規性要件を満たせなくなる
要件の項目でも解説したように、特許を取得するには新規性が必要です。
出願前にその発明を実施したソフトウェアを一般発売したり発明について記した論文を公開したりしてしまうと、ソフトウェア特許の取得は難しくなります。そのため、特許出願を予定している場合には、情報管理に特に注意しなければなりません。
ソフトウェア特許の取得を成功させるポイント
ソフトウェア特許の取得を成功させるためには、どのようなポイントを踏まえればよいのでしょうか?最後に、ソフトウェア特許の取得を成功させる主なポイントを2つ解説します。
- ソフトウェア特許に強い弁理士のサポートを受ける
- 技術開発段階から弁理士に相談する
ソフトウェア特許に強い弁理士のサポートを受ける
1つ目は、ソフトウェア特許に強く実績が豊富な弁理士にサポートを受けることです。
先ほども解説したように、ソフトウェア特許は弁理士の中でも得意・不得意が分かれやすい分野です。また、拒絶査定となったにもかかわらず出願内容が公開されてしまう事態を避けるため、出願を決める前に特許取得の見込みをある程度正確に把握しなければなりません。
そのため、距離的な近さなどだけで選ぶのではなく、ソフトウェア特許の出願実績などから弁理士を選定することをおすすめします。実績豊富な弁理士にサポートを依頼することで、特許を受けられる可能性が高くなるほか、無駄な出願を避けることも可能となります。
技術開発段階から弁理士に相談する
2つ目は、出願直前ではなく、技術開発の段階から弁理士のサポートを受けることです。技術開発の時点から相談することで、特許調査の段階からサポートを受けることが可能となるためです。
これにより、技術トレンドを見定めて自社の開発の方向性を定めることが可能となるほか、すでに他社が発明している技術について「車輪の再発明」をする事態も避けられ、自社の成長に寄与する効率的な開発が可能となります。
また、特許の取得を重視しているにもかかわらず特許を受けられる可能性の低い発明にリソースを投じてしまう事態も避けやすくなるでしょう。
まとめ
ソフトウェア特許の概要やソフトウェア特許の要件、出願時の注意点やソフトウェア特許の取得を成功させるポイントなどについて解説しました。
ソフトウェア特許とは、コンピュータプログラムに関する発明を保護対象とする特許です。特許法上の分類ではなく、通常の特許と別枠で設けられている制度ではありません。
ただし、ソフトウェア特許を適切に出願するにはコンピュータシステムに関する理解が不可欠であり、弁理士の専門性が特に問われる分野といえるでしょう。ソフトウェア特許の取得を成功させるためには、技術開発の段階から、ソフトウェア特許についての実績が豊富な弁理士のサポートを受けることが近道といえます。
中辻特許事務所は企業の特許出願のサポートや知財戦略の立案支援に力を入れており、ソフトウェア特許の出願についても多くの実績があります。ソフトウェア特許の出願ご検討の際や、ソフトウェア特許を含めた知財戦略の立案・実行をご検討の際には、中辻特許事務所までお気軽にご相談ください。クライアント様の未来をともに見据え、知的財産戦略の成功を全力でサポートいたします。