Published On: 2024年11月13日Categories: 特許権・実用新案権の取得By
特許出願とは

特許権は発明をしただけで付与されるものではなく、特許を受けるには特許庁に出願をして登録を受けなければなりません。

では、特許出願はどのような流れで行えばよいのでしょうか?また、特許出願をする際は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?

今回は、特許出願の概要や出願前後の流れ、特許出願の注意点について弁理士が解説します。

特許出願の基本的な概要

はじめに、特許出願の基本について解説します。

特許とは

特許とは、発明を保護する制度です。特許について定めている特許法は、「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与すること」を目的としています(特許法1条)。

特許出願とは

特許権を取得するには、特許庁に出願して登録を受けなければなりません。この特許の登録を特許庁に願い出る手続きを「特許出願」といいます。

特許権は発明と同時に自動で発生するものなどではなく、取得には特許出願が必須である点を理解しておきましょう。

特許出願をしても特許が受けられないケース

特許出願をしたからといって、必ずしも特許が受けられるわけではありません。ここでは、特許出願をしても特許が受けられない主なケースを紹介します。

  • 「発明」ではない場合
  • 産業上利用できるものではない場合
  • 新規性がない場合
  • 容易に考え出せるものである場合
  • 先に出願されている場合
  • 公序良俗を害するものである場合

なお、実際のケースにおいて、ある発明について特許が受けられそうか否かを自社で判断することは容易ではないでしょう。特許出願を検討する際は、弁理士へご相談ください。

弁理士へ相談することでその発明に関して特許が受けられそうか否かを事前に察知しやすくなり、無駄な出願を避けやすくなります。

参照元:

「発明」ではない場合

「発明」でない場合には、出願をしても特許を受けることはできません。特許はそもそも、発明を保護する制度であるためです。

発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」を指します。たとえば、次のものは「発明」に該当しないため、特許は受けられません。

  • 「自然法則」でないもの:計算方法・遊戯方法・経済法則など
  • 「自然法則」に反するもの:永久機関など
  • 「自然法則」そのもの:万有引力の法則など
  • 「技術的思想」ではないもの:フォークボールの投球方法、絵画・彫刻、データベースなど
  • 「創作」でないもの:エックス線など(発見であり、創作ではない)
  • 「高度」でないもの:日用品の考案など(実用新案権での保護を検討する)

産業上利用できるものではない場合

発明であっても、産業上利用できないものについては特許を受けることができません(同29条1項)。特許制度は、産業の発達に寄与することが目的とされているためです。

たとえば次のものなどは、産業上利用できないものに該当すると考えられます。

  • 事実上、明らかに実施できないもの
  • 個人的にのみ利用され、市販などの可能性がないもの

新規性がない場合

新規性がないものは、出願をしても特許を受けることができません(同29条1項)。新規性とは、今までにない「新しいもの」であることです。

次のものなどは、新規性がないとして拒絶査定となる可能性が高いでしょう。

  • 特許出願前に、公然と知られた発明:テレビ放映された発明など
  • 特許出願前に、公然と実施された発明:店で販売された発明など
  • 特許出願前に書籍やインターネットに掲載された発明

初めて特許出願をしようとする事業者は、この点に特に注意しなければなりません。画期的な発明ができたことをアピールするため、出願前にテレビ取材などを受けて放映されてしまえば、もはや特許が受けられなくなるためです。

特許出願予定の場合、情報管理には十分な注意が必要です。

容易に考え出せるものである場合

容易に考え出せるものであれば、出願をしても特許を受けることができません(同29条2項)。従来の技術をほんの少し改良しただけの発明などが、これに該当します。

これを、「進歩性の要件」などといいます。

先に出願されている場合

特許は先願主義(いわゆる「早い者勝ち」)をとっており、先に他者に出願されてしまうと、もはや自社が特許を受けることはできません。「先に発明した側」ではなく、「先に出願した側」が特許を受けられることに注意が必要です。

そのため、他社も開発を進めている重要な技術などである場合、発明ができたら一刻も早い出願をおすすめします。

公序良俗を害するものである場合

他の要件をすべて満たしていたとしても、公序良俗を害するものは特許を受けることができません(同32条)。たとえば、紙幣偽造機械や金塊密輸用ベスト、アヘンを吸う器具などがこれに該当するとされています。

特許出願の必要書類

特許の出願では、どのような書類が必要となるのでしょうか?ここでは、主な必要書類を紹介します。

  • 特許願
  • 明細書及び図面
  • 特許請求の範囲
  • 要約書

なお、特許出願に必要な書類を、自社で的確に作成することは容易ではありません。出願書類に不備があれば拒絶査定の原因となるのみならず、特許を取得できてもその範囲に問題があり、使い勝手の悪い特許となるおそれなどが生じます。出願書類の作成は、専門家に依頼するとスムーズです。

参照元:よくあるご質問(日本弁理士会)

特許願

1つ目は、特許願です。

これは、特許出願の表紙に相当する書類です。ここには、発明者や特許出願人の氏名・住所などの基本情報を記載します。

明細書及び図面

2つ目は、明細書と図面です。

明細書には、特許の取得を希望する発明の内容を具体的に記載します。特許取得を希望するアイデアや試作品などの内容を詳しく説明する書類です。

また、図面は必須ではないものの、図を示したほうが発明の内容を的確に説明できるケースは多いでしょう。そのため、可能な限り図面を添付することが望ましいと考えられます。

特許請求の範囲

3つ目は、特許請求の範囲です。

これは、特許権を取得したい事項を記載する書類です。この請求の範囲の記載に基づいて権利の内容が定められるため、非常に重要な書類です。

特許請求の範囲が広すぎれば特許を取得できない可能性が高まる一方で、不必要な限定をつけて特許請求の範囲を狭めすぎれば使い勝手の悪い特許となりかねません。

要約書

4つ目は、要約書です。要約書は、400文字程度で発明の概要を簡潔に記載する書類です。

特許出願にかかる費用

特許の出願や設定登録には、どのような費用がどの程度かかるのでしょうか?ここでは、特許出願にかかる主な費用について解説します。

  • 弁理士報酬
  • 特許印紙代
  • 出願審査請求料
  • 特許登録料
  • 特許年金

弁理士報酬

特許出願は、弁理士に依頼して行うことが一般的です。特許出願を弁理士に依頼した場合における弁理士報酬の目安は、出願1件あたり25万円から35万円程度です。

ただし、弁理士報酬は自由化されており、すべての弁理士が同様の価格設定を行っているとは限りません。そのため、依頼する前には、トータルで要する報酬額を確認しておくことをおすすめします。

特許印紙代

特許出願にあたっては、出願手数料がかかります。出願手数料の額は、1つの出願あたり14,000円です。

なお、インターネット出願ではなく郵送や書類の持ち込みで申請をした場合には、別途「電子化手数料」がかかります。電子化手数料の額は、次の式で算定します。

  • 電子化手数料=2,400円+(800円×書面のページ数)

出願審査請求料

後ほど解説しますが、特許を出願するとまず形式的な審査がなされ、その後実体審査へと移行します。この実体審査へ移行するにあたっては、出願審査請求料を支払わなければなりません。

出願審査請求料は、次の式で算定します。

  • 出願審査請求料=138,000円+(請求項の数×4,000円)

なお、出願審査請求料は遅くとも出願から3年以内に支払わなければならないため、期限に遅れないようご注意ください。

特許登録料

特許査定が出たら、特許を受けるために、1年目から3年目までの特許登録料をまとめて支払う必要が生じます。1年目から3年目までの1年あたりの特許登録料の額は、次の式で算定します。

  • 1年あたりの特許登録料(1年目から3年目)=4,300円+(請求項の数×300円)

つまり、請求項の数が1である場合、登録時に支払うべき特許登録料の金額は次のとおりとなります。

  • 登録時に支払うべき特許登録料=(4,300円+300円)×3年分=13,800円

なお、これは2004年4月1日以降に審査請求をした出願である場合の特許登録料です。2004年3月31日以前に審査請求をした出願である場合は金額が異なるため注意が必要です。

特許年金

特許年金とは、特許を維持するために特許庁に毎年納めるべき費用です。

先ほど解説したように、1年目から3年目の分については特許登録料として登録時点で支払います。一方で、4年目以降は、原則として毎年特許年金を納めなければなりません(複数年分をまとめて納めることも可です)。

4年目以降分の特許年金の額は、それぞれ次のとおりです。

項目 金額(1年分)
第4年から第6年まで 毎年10,300円+(請求項の数×800円)
第7年から第9年まで 毎年24,800円+(請求項の数×1,900円)
第10年から第25年まで 毎年59,400円+(請求項の数×4,600円)

ただし、一定の中小企業や小規模事業者、スタートアップなどを対象とした減免措置が設けられています。対象となりそうな場合には、要件を確認しておくことをおすすめします。

なお、減免措置の対象となるのは第10年分までの特許年金のみであり、これ以降の分には減免措置はありません。

参照元:特許料等の減免制度(特許庁)

特許出願の流れ

特許出願は、どのような流れで行えばよいのでしょうか?ここでは、一般的な流れを解説します。

  • 先行技術調査をする
  • 出願書類を作成する
  • 特許出願をする
  • 方式審査がされる
  • 出願審査請求をする
  • 実体審査を経て、特許査定がされる
  • 特許権設定登録をする

先行技術調査をする

特許を受けることを希望する場合、はじめに先行技術調査を行います。先行技術調査とは、すでに同じような技術が特許を得ていないかどうか、あらかじめ調査することです。

同様の技術についてすでに特許権が設定されている場合、出願をしても特許を受けることはできません。また、その技術を無断で実施すれば、特許権侵害となるおそれもあります。

先行技術調査は、「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」から行うことが一般的です。自社で的確な先行技術調査を行うことは容易ではないため、お困りの際は弁理士へご相談ください。

出願書類を作成する

先行技術調査を経て出願する特許の内容や範囲が決まったら、出願書類を作成します。

出願書類の作成や出願内容の検討は、弁理士へお任せください。出願する特許の選定や的確な範囲の設定は容易ではなく、これを誤れば使い勝手の悪い特許となるおそれが高くなるためです。

特許出願をする

出願書類を作成したら、特許を出願します。特許出願には次の3つの方法があるため、自社に合った方法で出願してください。

  1. 郵送
  2. 特許庁の窓口(東京都千代田区霞が関にある)への持ち込み
  3. インターネット

先ほど解説したように、郵送や窓口での出願の場合には、出願手数料のほかに電子化手数料が必要となります。

方式審査がされる

特許を出願すると、まずは方式審査がなされます。ここではまず、形式面が審査されます。

出願審査請求をする

方式審査に問題がなければ、実体審査へ進みます。

ただし、実体審査へは自動的に移行するものではありません。改めて出願審査請求書を提出するとともに、出願審査請求料を納めることが必要です。

実体審査を経て、特許査定がされる

出願審査請求をすると、審査の順番待ちを経て実体審査がなされます。

実体審査の結果、拒絶理由がない状態となれば、特許査定がなされます。つまり、特許登録料を納めれば、特許権設定登録ができる状態ということです。

一方で、そのままでは特許登録ができない事情がある場合には、「拒絶理由通知」がなされます。この拒絶理由通知がなされた段階では、まだ特許が受けられないと決まったわけではありません。意見書や補正書を提出して拒絶理由がなくなったと判断されれば、特許査定がなされます。

特許権設定登録をする

特許査定がなされたら、特許登録料を納めて特許権設定登録を行います。この時点から、特許権が発生します。

なお、特許登録料は特許査定の謄本が送達されてから30日以内に納めなければなりません。期限に遅れないよう、速やかに納付することをおすすめします。

特許出願の注意点

最後に、特許出願の主な注意点を解説します。

  • 適切な範囲での特許出願は容易ではない
  • 先に公開してしまうと特許を受けられなくなる
  • 海外進出を予定している際は海外での出願手続きも必要となる

適切な範囲での特許出願は容易ではない

適切な範囲を設定して特許出願をするには、専門的な知識や経験が不可欠です。自社で特許出願をした場合、特許範囲の設定を誤って後悔するケースは少なくありません。

範囲を誤ると、その特許が適切に保護されないおそれが生じるほか、使い勝手が悪くなり価値のない特許となったりするおそれがあります。

弁理士のサポートにより、書類作成だけでなく、適切な範囲での出願が可能となります。せっかくの特許を使い勝手の悪いものとしないよう、特許出願は弁理士へお任せください。

先に公開してしまうと特許を受けられなくなる

先ほど要件の項目で解説したように、先に特許技術を公開したり製品を販売したりしてしまうと、特許を受けることができなくなります。特に、テレビや雑誌の取材などは、気軽に受けてしまうこともあるでしょう。

しかし、特許出願を予定している場合は、出願までの情報管理に特に注意しなければなりません。

海外進出を予定している際は海外での出願手続きも必要となる

特許権は、全世界に通用するものではありません。日本の特許制度により保護を受けられるのは、原則として国内においてのみです。

そのため、海外への進出を予定している場合、海外でも技術の保護を受けたいのであれば、その国においても別途特許を受けるための手続きをしなければなりません。

海外進出をご検討の際には、海外の特許出願にも対応できる弁理士へご相談ください。中辻特許事務所は、海外における特許出願にも強みを有しており、安心してお任せいただけます。

まとめ

特許出願の概要や流れ、特許出願にかかる費用などについて解説しました。

特許権は発明と同時に発生するものではなく、特許を受けるには出願をしなければなりません。また、特許を受けるにはさまざまな要件が設けられており、1つでも要件を満たさなければ登録を受けられなくなります。

無駄な出願を避け、ビジネスの発展につながる特許を取得するには、弁理士のサポートを活用しましょう。

中辻特許事務所では特許出願のサポート実績が豊富であり、海外での出願にも強みを有しています。ビジネスの発展に寄与する的確な特許出願をご希望の際は、中辻特許事務所までお気軽にご相談ください。