Published On: 2024年11月15日Categories: 特許権・実用新案権の取得By
特許調査とは

自社でビジネスを展開する際に最も重要なことの1つは、「他者の特許権を侵害しない」ことです。特許権を侵害すれば流通させた製品を回収する「差止請求」の対象となったり損害賠償請求がなされたりするなど、経営に甚大な影響が及びかねません。

そこで重要となるのが「特許調査」です。あらかじめ特許調査を行うことで、他者の特許権侵害を未然に防ぐことができます。また、自社で特許出願をするにあたり、無駄な出願を避けることも可能となるでしょう。

では、特許調査とはどのようなものなのでしょうか?また、特許調査は自社で行うこともできるのでしょうか?今回は、特許調査の基本や自社で特許調査をするリスクなどについて、弁理士がくわしく解説します。

特許権とは

特許権とは、「発明」を独占的に実施できる権利です。発明とは、自然法則を利用した高度な技術的思想の創作を指します(特許法2条1項)。

特許権は、発明と同時に自然に発生するものではありません。発明を特許庁に出願し、特許を受けられると判断(「特許査定」といいます)されて、はじめて特許権が発生します。

自社が特許権を取得した発明を他者が無断で実施した場合、差止請求や損害賠償請求などの対象となります。つまり、その発明を自社が独占的に実施できるということです。また、他者にライセンスして、ライセンス料を得ることも可能です。

特許を受ける主な要件

特許を受けるには、一定の要件を満たさなければなりません。要件を1つでも満たさない場合、出願をしても特許を受けられない旨の判断(「拒絶査定」といいます)がなされます。ここでは、特許を受けるために満たすべき主な要件を解説します。

  • 発明であること
  • 産業上の利用可能性があること
  • 進歩性があること
  • 先に出願されていないこと
  • 公序良俗を害さないこと

発明であること

特許を受けるには、「発明」でなければなりません。先ほど解説したように、発明は「自然法則を利用した高度な技術的思想の創作」を意味します。

たとえば次のものは「発明」ではなく、特許を受けられないとされています。

  • 自然法則自体 (エネルギー保存の法則など)
  • 単なる発見であって創作でないもの (X線自体の発見など)
  • 自然法則に反するもの (永久機関など)
  • 人為的な取り決めなど、自然法則を利用していないもの(ゲームのルールなど)

産業上の利用可能性があること

特許法は、「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与すること」を目的としています(同1条)。そのため、現実的に実施できない発明など、産業上の利用可能性がない場合には特許を受けることができません。

新規性があること

特許を受けるには、発明に新規性があることが必要です。たとえば、次のものなどは特許を受けることができません(同29条1項)。

  1. 特許出願前に日本国内または外国において公然知られた発明
  2. 特許出願前に日本国内または外国において公然実施をされた発明
  3. 特許出願前に日本国内または外国において、頒布された刊行物に記載された発明または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明

出願前に論文や雑誌に掲載されたりテレビの取材を受けたりして公然知られることとなった場合には、この要件を満たせず特許を受けることができなくなります。同様に、その発明の実施により製造された製品を出願前に一般発売した場合などにも、この要件を満たしません。

進歩性があること

特許を受けるには、発明に進歩性があることが必要です(同29条2項)。

公知技術を基に通常の技術者が簡単に考え出せる発明は、「進歩性がない」として拒絶されます。そのため、特許出願を前提として特許調査をする際は、進歩性の観点からの調査も必要です。

先に出願されていないこと

特許は先願主義を採っており、すでに出願されたものと同様の発明は特許を受けることができません。発明の順序ではなく、先に出願をした者が特許を取得できることとなります。

公序良俗を害さないこと

他の要件を満たしていても、公序良俗を害する発明は特許を受けることができません(同32条)。

特許調査とは

特許調査とは、ある発明が誰かに出願されているか否かを調べることです。

先ほど解説したように、特許は先願主義を採っており、すでに出願されたものと同様の発明では特許を受けることができません。また、すでに出願された発明を少し改良しただけの発明は進歩性がないと判断され、拒絶査定となるでしょう。

他者が特許を受けている発明を無断で実施すれば、特許権侵害となるおそれもあります。そのため、新たな技術開発をしようとする際や新製品を開発しようとする際、自社の開発について特許出願をしようとする際には、特許調査が必須となります。

【目的別】特許調査の4種類

特許調査には、目的ごとに主に4つの種類が存在します。ここでは、それぞれの特許調査について概要を解説します。

  • 技術動向調査
  • 先行技術調査
  • 侵害防止調査
  • 無効資料調査

技術動向調査

1つ目は、技術動向調査です。これは、自社で研究を開始する際や研究の途上において、その研究に関する公知技術の有無や具体的な内容などを調べるものです。

技術動向調査をすることで、いわゆる「車輪の再発明(すでに世の中に存在する技術を、手間暇をかけて一から発明すること)」を避けることができ、効率的な研究開発が可能となります。また、研究の方向性を定める際の参考ともなるでしょう。

先行技術調査

2つ目は、先行技術調査です。「出願前調査」とも呼ばれ、自社が特許出願をしようとする発明がすでに他者によって出願されてないことを調べるものです。

すでに同様の発明が他者によって出願されていれば、自社が出願をしたところで特許を受けることはできません。先行技術調査をすることで権利化の見込みがないことを事前に察知でき、無駄な出願を避けることが可能となります。

侵害防止調査

3つ目は、侵害防止調査です。「権利調査」とも呼ばれ、自社の発明品を製造・販売するにあたって障害となり得る特許権の存在の有無を調べるものです。

たとえ故意でなかったとしても、他者の特許技術を侵害すれば、差止請求や損害賠償請求の対象となるなど大きな影響が生じかねません。量産化してしまってから特許権侵害に気付いた場合には、自社の収益に甚大な影響が及ぶ可能性が高いでしょう。そのような事態を未然に防ぐために行うのが、侵害防止調査です。

調査の結果、障害となる特許権の存在が判明した場合には、その特許技術の使用を回避したり特許権者にライセンスの交渉をしたりすることが検討できます。一方で、障害となり得る特許権がないことがわかれば、安心して量産化に取り組むことが可能となります。

無効資料調査

4つ目は、無効資料調査です。「公知例調査」とも呼ばれ、他者の特許権を無効化する目的で行うものです。

発明品を製造・販売するにあたって障害となり得る他者の特許権がある場合、これを無効化することも選択肢の1つとなります。ただし、他者の特許権を無効化するには、十分な証拠がなければなりません。

そこで、その発明が出願より前に公知となっていた証拠がないか否かを調査します。出願より前にその発明が公知となっていることが証明できればその特許権を無効化でき、自社の製造・販売の障害を排除できるためです。

特許調査で知っておくべき基礎知識

特許調査をする際は、特許調査に関する一定の知識を持っておくとスムーズでしょう。ここでは、特許調査にあたって知っておくべき基礎知識について解説します。

  • 公開公報
  • 特許公報
  • 公告公報
  • J-PlatPat
  • IPC
  • FI
  • Fターム

公開公報

「公開広報(出願公開公報)」とは、出願された特許の内容を一般に知らせる目的で、特許庁が行う広報です。

特許は最終的に権利化できるか否かにかかわらず、出願から1年6か月が経過した時点で公表されることとなっています(同64条1項)。この段階ではまだ特許を受けられていないため、「2024年特許出願公開〇〇〇〇〇〇号」などの公開番号が付されます。

公開広報は、「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」から検索できます。

特許公報

特許公報(特許掲載公報)とは、特許された発明を公開する広報です。

先ほど紹介した「公開広報」は特許を受けられるか否か不明な段階でなされるのに対し、この「特許公報」では正式に特許を受けたものだけが公表されます。そのため、特許公報には「特許第〇〇〇〇〇〇号」などの特許番号が表示されます。

公告公報

公告広報とは、審査の結果、審査官が特許権を与えてもよいと判断したものについて、公衆からの異義を受け付けるために出願内容を公開する公報です。

ただし、この公告広報は1994年の特許法改正によって廃止され、現在は行われていません。現在はこれに代わり、先ほど紹介した「特許公報」が行われています。

J-PlatPat

特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)とは、過去の公開公報や特許公報などが検索できるデータベースです。独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営しており、無料で利用できます。自身で特許調査をする際は、まずはこのJ-PlatPatを使うことが多いでしょう。

IPC

IPC(International Patent Classification)とは、国際特許分類の略称です。世界共通の特許分類であり、日本を含む100か国以上で採用されています。

IPCを理解しておくことで特許調査をするにあたって対象を絞り込みやすくなり、効率的かつ漏れのない調査がしやすくなります。

参照元:海外の特許を特許分類から調べる(国立国会図書館サーチ)

FI

FI(File Index)とは、IPCをさらに細分化した分類記号であり、特許庁が作成しました。FIを理解しておくことでIPCよりもさらに詳細な絞り込みが可能となり、特許調査に役立ちます。

Fターム

Fタームとは、IPCを目的・用途・構造・材料などの技術的観点から分類したコード体系です。こちらも特許庁が作成したものであり、効率的かつ漏れのない特許調査に活用できます。

特許調査をする主な方法・やり方

特許調査は、どのように行えばよいのでしょうか?ここでは、特許調査をする主な方法を2つ解説します。

J-PlatPatなどを使って自力で調査する

1つ目は、J-PlatPatなどを使って自力で調査する方法です。

J-PlatPatではキーワード検索などが可能であり、テキストベースで特許情報が検索できます。特許庁のホームページに具体的な操作方法が掲載されているため、こちらを参考に、まずは検索をしてみるとよいでしょう。

ただし、特許情報の検索はGoogle検索などのように直感的にできるものではなく、先ほど紹介したIPCやF1などを理解していなければ、必要な情報をうまく見つけられないかもしれません。

参照元:特許公報を検索してみましょう(特許庁)

弁理士へ依頼する

2つ目は、弁理士へ依頼することです。

弁理士へ特許調査を依頼した場合には、費用がかかります。その反面、弁理士は知的財産のプロフェッショナルであり、必要な特許情報をスムーズかつ確実に調査してもらうことが可能です。

そのため、自社にとって重要な特許調査をする際や出願を前提とした特許調査をする際には、弁理士に依頼することをおすすめします。

特許調査を自社で行う主なリスク

費用を抑えたいなどの理由から、特許調査を自社で行おうとする場合もあるでしょう。しかし、特許調査を自社で行うリスクは小さくありません。

コストを抑えようとして自社で特許調査を行った結果、のちに特許権侵害が発覚し多額の損害賠償請求などをされれば、本末転倒です。そこで最後に、特許調査を自社で行う主なリスクを紹介します。

  • 多大な時間と手間を要する
  • 見落としが生じる可能性がある
  • 解釈を誤る可能性がある

多大な時間と手間を要する

あらかじめ特許番号などがわかっている場合、J-PlatPatを活用すれば、簡単に目的の情報にたどり着けるでしょう。一方で、「あるかどうかがわからない情報」を検索するには、特許に関する知識や検索技術、IPCやFIなどに対する理解が必要となります。

Google検索のように手軽にできると考えて検索をしてみると、検索の難しさに困惑するかもしれません。

自社で的確な特許調査をするには前提の理解が不可欠であり、多大な時間と手間を要する可能性が高くなります。

見落としが生じる可能性がある

先ほど解説したように、自社で的確な特許調査をすることは容易ではありません。自社での特許調査で見落としがあると、無駄な特許出願をしてしまうリスクが高まります。

また、他者が登録を受けている特許権を見落とし、これを実施してしまうと、差止請求や損害賠償請求がなされるなど、大きなトラブルに発展するおそれもあるでしょう。

解釈を誤る可能性がある

特許調査をしても、J-PlatPatなどが「御社の発明と類似する特許発明は登録されていないので、御社は特許を受けられます」「御社の発明は、他者の特許権を侵害しません」などと判断してくれるわけではありません。また、まったく同じ発明が特許を受けていることは稀でしょう。

そのため、自社で特許調査をする場合、J-PlatPatなどによる検索結果を自社で読み解き、判断を下さなければなりません。判断を誤ると特許権侵害に該当したり、進歩性がないなどとして特許を受けられなかったりする可能性が生じます。

反対に、特許を取得できた可能性があったにもかかわらず、判断を誤り出願を諦め、権利化を逃してしまうおそれもあるでしょう。

このような事態を避けるため、特許調査は弁理士に依頼することをおすすめします。弁理士へ依頼することで的確な特許調査が可能となり、自信を持った経営判断がしやすくなります。

まとめ

特許調査の概要や知っておくべき前提知識、特許調査を自社で行う主なリスクなどを解説しました。

特許調査とは、ある発明が特許として登録されているか否かなどを調べることです。自社の発明について特許を受けられるか否かを出願前に察知する目的で行う場合のほか、他者の特許権を侵害しないよう開発段階で行う場合などが挙げられます。

的確な特許調査を行うことで無駄な特許申請や無駄な開発の回避が可能となるほか、知らず知らずに他者の特許権を侵害する事態などを避けることが可能となります。

しかし、特許調査を自社だけで行うことは容易ではありません。特許調査に漏れや誤りがあれば他者の権利を侵害し、大きなトラブルに発展するおそれが生じます。

量産をしてから特許権侵害に気付いた場合などには、影響は甚大なものとなるでしょう。そのような事態を避けるため、特許調査は弁理士に依頼して行うことをおすすめします。

中辻特許事務所では企業の知財戦略をサポートしており、特許調査の代行も行っています。特許調査をプロに依頼し経営判断や知財戦略に活かしたいとお考えの際は、中辻特許事務所までお気軽にご相談ください。