Published On: 2025年1月3日Categories: コンサルティングBy
知財戦略策定をコンサルタントに依頼するメリットは?依頼先の選び方や注意点を解説

知財戦略策定をコンサルタントに依頼するメリットは?依頼先の選び方や注意点を解説
知財戦略は、自社の事業成長へと大きく寄与するものです。自社の経営戦略とリンクした的確な知財戦略を策定することで、自社の競争力や優位性を格段に高められることでしょう。

この知財戦略の策定は自社だけで行う場合もあれば、コンサルタントのサポートを受けて行う場合もあります。では、コンサルタントのサポートを受けて知財戦略を構築することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?また、知財戦略コンサルティングを依頼する際は、どのような点に注意すればよいのでしょうか?

今回は、知財戦略の概要や知財戦略コンサルティングを専門家に依頼するメリット、専門家を選ぶ視点などについてくわしく解説します。

知財戦略とは

知財戦略とは、自社の経営目標を受けて自社に適合する知的財産権を構築するための戦略です。知財戦略をもとに的確な知的財産を計画的に獲得することは、市場での優位性の確保や他社による参入の阻止など、事業を有利に進めることに寄与します。

もったいないことに、知的財産について後手に回っている企業は少なくありません。しかし、後手に回れば獲得できる知的財産は「点」にしかならず、十分な強みを発揮できない可能性が高くなります。また、ライバル企業から隙を突かれる可能性も高くなるでしょう。

そうではなく、あらかじめ自社の狙いを明確に定め、これをカバーできるよう順に知的財産という楔(くさび)を打ち込んでいくことで、より強固な「面」としての効力を発揮します。

孫子の兵法と知財戦略

紀元前より戦いを勝ち抜くためにさまざまな戦略が練られてきました。今回は、その中でも基本となる「孫子の兵法」について少し解説します。

孫子の兵法は、(1)計篇、(2)作戦篇、(3)謀攻篇、(4)形篇、(5)虚実篇、(6)九変篇、(7)地形篇、(8)九地篇、(9)用間篇、(10)火攻篇などが含まれます。

(1)計篇には、「無謀な戦いをしてはならない」点と、「戦いとは敵をだますことである」点、「戦う前に勝敗を知るべき」という点が述べられています。

(2)作戦篇には、「戦いは膨大な浪費である」点、「兵站こそ生命線である」点が述べられています。

(3)謀攻篇には、「百戦百勝はベストではない」点、「彼を知り己を知るべきである」点が述べられています。

(4)形篇には、「守りは攻めよりも強力である」点、「勝者は戦う前に勝利している」という点が述べられています。

(5)虚実篇には、「主導権を握るべき」という点、「敵を操るべきである」という点、「兵力の集中が重要である」という点が述べられています。

(6)九変篇には、「臨機応変に対処すべき」点、「利害両面で考えるべき」点が述べられています。

(7)地形篇には、「地形に適した戦術を取るべき」である点が述べられています。

(8)九地篇には、「徹底的に奥深くまで進攻すべき」点が述べられています。

(9)用間篇には、「敵情を察知すべき」点、「スパイを使いこなべき(スパイに対抗すべき)」点が述べられています。

(10)火攻篇には、「死んだ者は帰って来ない」という点が述べられています。

いかがですか?紀元前の世界でも、このような要素を考慮して「戦略」が練られてきたのです。知的財産の面から戦略を捉えた場合も、共感できる多くの要素があったのではないでしょうか?

その後、マキャベリ、クラウゼビッツ、リデルハート等の著名人によりさまざまな戦略論が体系化されてきました。これらの先人が体系化してきた戦略論の各要素を知的財産に適用して包括的な戦略を策定し、この戦略を受けて戦術を駆使することが重要になります。

知的財産を巡る争いは、ある意味で「リアルな戦い」です。あらゆる国の軍人は、より有効な戦略、戦術を構築できる力を磨くために生涯を捧げます。知的財産の戦略を構築するためには、これらの基礎的事項だけではなく、例えば「バーゲニングチップ」と呼ばれる手段などを駆使しつつ、戦う必要があります。単なる注意事項を「戦略」という言葉に置き換えたのでは不十分であると認識することが望まれます。

このようなさまざまな側面から検討することにより、自社がどのような知財戦略を構築するかが重要です。的確な知財戦略は、経営をしていくうえでの財産となり得るでしょう。

知財戦略を構築する主なメリット

企業が知財戦略を構築することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、知財戦略を策定する代表的なメリットを5つ解説します。ここでは紹介することが憚られる大きなメリットもありますが、その解説については割愛します。

  • 市場の維持や拡大につながる
  • 漏れのない的確な権利取得がしやすくなる
  • 自社の交渉力を高めやすくなる
  • 他社の攻撃に対応しやすくなる
  • ライセンス収入を得るなど収益拡大を目指せる

市場の維持や拡大につながる

1つ目は、市場の維持や拡大につながることです。

知財戦略を構築し、戦略をもって楔となる知的財産を獲得していくことで、その分野において他社の参入を阻止することが可能となります。「点」ではなく「面」として複数の知的財産を保有する場合、参入障壁はさらに高いものとなるでしょう。

これにより、市場の維持や独占が可能となります。

漏れのない的確な権利取得がしやすくなる

2つ目は、漏れのない的確な権利が取得しやすくなることです。

知的財産の獲得が後手に回っている場合、取得した知的財産に漏れや無駄が生じることが少なくありません。獲得できたはずの知的財産に漏れがあれば、他社にその隙を突かれ参入や交渉のきっかけとされるおそれが生じます。

知財戦略を策定し、獲得を目指すべき知的財産のルートマップができていれば、漏れや無駄のない的確な権利を取得しやすくなります。

自社の交渉力を高めやすくなる

3つ目は、自社の交渉力を高めやすくなることです。

知財戦略を構築し、自社が独占できる分野が拡大すればするほど、自社の交渉力を高めることが可能になります。隙のない知的財産を取得している場合、他社には付け入る隙がなく、その分野でビジネスをするためには自社からライセンスを受ける必要が生じるためです。

知財戦略を策定し知的財産の鉄壁をはりめぐらせることで、自社の交渉力を格段に高めることにつながるでしょう。

他社の攻撃に対応しやすくなる

4つ目は、他社の攻撃に対応しやすくなることです。

自社の知財戦略を構築する際には、他社によって取得されている知的財産も調査することとなります。この過程において、他社がとっている知財戦略が把握しやすくなるでしょう。反対に、自社が知財戦略に力を入れていなければ、他社の知財戦略に気付くことさえ難しいかもしれません。

知財戦略をもった企業同士の戦いは、「陣取りゲーム」のようなものです。「敵」の戦略を知ることで、他社の攻撃を防御したり他社と重ならない技術分野に力を入れるよう方向転換をしたりなど、他社の攻撃への対応がしやすくなります。

ライセンス収入を得るなど収益拡大を目指せる

5つ目は、ライセンス収入を得るなど収益機会の拡大を目指せることです。

知財戦略を構築して価値の高い知的財産を獲得した場合、これを自社のみで実施することに加え、他社にライセンスをして収益を得る道も開かれます。これにより、自社が直接実施しない知的財産についても収益化することが可能となり、収益の増大へとつながります。

知財戦略を策定しない場合に生じ得る主なリスク

企業が知財戦略を策定しない場合には、さまざまなリスクが生じます。ここでは、主なリスクやデメリットを3つ解説します。

  • 取得すべき知的財産に漏れが生じる
  • 自社にとって価値の低い知的財産を取得して無駄が生じる
  • 知的財産獲得のチャンスを逃す

取得すべき知的財産に漏れが生じる

知財戦略がない場合、獲得する知的財産の整合性をとりづらくなるうえ、権利獲得が後手にまわりやすくなります。その結果、取得すべき知的財産に漏れが生じ、他社に付け入る隙を与えやすくなります。

布石となるはずの知的財産を他社に取得されてしまえば、自社の交渉力や優位性が弱まりかねないでしょう。

自社にとって価値の低い知的財産を取得して無駄が生じる

知財戦略がなく「行き当たりばったり」で知的財産の獲得を進めた場合、自社にとって価値の低い知的財産を取得してしまい、無駄が生じるおそれが生じます。また、全体が見渡せていないことから、特許などの出願時に不要な範囲限定を付してしまい、せっかくの権利が価値の低いものとなる可能性もあるでしょう。

知的財産獲得のチャンスを逃す

知財戦略がなく知的財産の獲得が後手に回っている場合、知的財産獲得のチャンスを逃すおそれが生じます。

たとえば、特許を受けるには「新規性」要件などを満たす必要があり、出願前に公知となった発明については特許を受けることができません。そのため、出願前にその発明を論文や取材を受けた雑誌、自社のブログなどで公表してしまえば、もはや特許を受けることはできなくなります。

知財戦略を構築しておらず知財に関する理解が浅ければ、不用意な行為によって権利の獲得を逃してしまうおそれが生じます。

知財戦略策定について専門家からコンサルティングを受ける主なメリット

知財戦略の策定にあたっては、専門家からコンサルティングを受けるのがおすすめです。ここでは、知財戦略の策定についてコンサルティングを受ける主なメリットを4つ解説します。

  • 自社の知財の状況を客観視できる
  • 的確な知財戦略が策定できる
  • 知財専門家の立場から取得すべき権利についてアドバイスを受けられる
  • 実際の出願手続きを任せられる

自社の知財の状況を客観視できる

専門家にコンサルティングを受けることで、自社における知財の獲得状況を客観視することが可能となります。専門家が社外からの視点で自社の状況を見ることに加え、公開されている同業他社の権利獲得状況との比較検討ができるためです。

これにより、知財の点から見た自社の現在の「立ち位置」が明確となります。

的確な知財戦略が策定できる

経営戦略と同様に、知財戦略は策定自体がゴールではありません。その後、実際に知的財産の獲得を目指す際の羅針盤となってこそ本来の価値が生じるものです。

そうであるにも関わらず、策定した知財戦略に重大な欠陥があれば、ビジネスが暗礁に乗り上げる事態ともなりかねません。また、策定した知財戦略が信頼できないものであれば、戦略の実行にあたって迷いも生じることでしょう。

専門家からコンサルティングを受けて知財戦略を策定することで、的確な知財戦略の策定が可能となり、自信をもってその実現に取り組みやすくなります。

知財専門家の立場から取得すべき権利についてアドバイスを受けられる

知財戦略を策定しようにも、自社が獲得を目指す知的財産を見定めることは容易ではありません。

専門家からコンサルティングを受けることで、すでに取得している知的財産や他社に取得されている知的財産などを踏まえ、自社が獲得を目指すべき知的財産についてアドバイスを受けることが可能となります。

実際の出願手続きを任せられる

次で解説しますが、知財戦略のコンサルティングは弁理士に依頼することが一般的です。知財戦略コンサルティングを弁理士に依頼した場合、実際の出願についても代理してもらうことが可能となり、一貫したサポートを受けられます。

知財戦略コンサルティングは誰に依頼すればよい?

知財戦略コンサルティングは、弁理士に依頼するのがおすすめです。

弁理士は、知的財産を専門とする国家資格者です。弁理士は知的財産に精通しているほか、実際の出願手続きなどを任せることも可能です。

知財戦略コンサルティングを依頼する弁理士を選ぶポイント

知財戦略コンサルティングを依頼する弁理士は、どのような基準で選べばよいのでしょうか?ここでは、弁理士を選定する主な基準について解説します。

  • 専門性の高さ
  • 戦略策定力の高さ
  • 海外の知財制度への理解の深さ
  • 相談のしやすさ・人柄
  • コンタクトの取りやすさ

専門性の高さ

1つ目は、専門性の高さです。

弁理士は国家資格者であり、知的財産全般についての知識を有しています。しかし、実務能力のレベルは事務所によって異なるうえ、「特許に強い」や「商標に強い」などの専門性があることも少なくありません。

なかでも、特許は特にハイレベルな実務能力が求められることから、技術開発などを行う企業は特許に強い弁理士を選定するとよいでしょう。

戦略策定力の高さ

2つ目は、戦略策定力の高さです。

的確な知財戦略の策定には知的財産に関する深く広い知識に加え、戦略策定力も不可欠です。

ただし、弁理士であるからといって必ずしも戦略的思考に長けているとは限りません。知財戦略策定のパートナーとして選ぶのであれば、戦略的思考を有する弁理士を厳選して依頼するとよいでしょう。

海外の知財制度への理解の深さ

3つ目は、海外の知財制度への理解の深さです。

グローバル化が進行している昨今、海外展開をする企業も少なくありません。しかし、日本の特許制度や日本の商標制度によって保護を受けられるのは、日本国内においてのみです。

海外でも保護を受けたい場合は、その国の制度に従って出願などの手続きをしなければなりません。

そうであるにも関わらず、依頼した弁理士が海外での知財制度にノータッチであれば、戦略は片手落ちとなってしまうでしょう。そのため、海外展開を視野に入れている場合は、海外の知財制度についての見識もある弁理士に依頼することをおすすめします。

相談のしやすさ・人柄

4つ目は、相談のしやすさや人柄です。

弁理士も「人」である以上、相性などはあるものです。また、弁理士は本来「出願時だけ依頼する」専門家ではなく、知財に関して困りごとが生じた際に日ごろから気軽に相談できる「町医者」のような存在であるべきであると考えます。

そのため、相談のしやすさや弁理士の人柄なども踏まえて依頼を検討することをおすすめします。

コンタクトの取りやすさ

5つ目は、コンタクトのとりやすさです。

連絡の取りやすさや連絡手段が自社に合っているかどうかなども、弁理士を選定する一つの基準となります。相談したい際に最短でいつ相談できるのか、また相談は対面だけであるのか電話やオンラインツールなどでも相談できるのかなどを含め、確認しておくとよいでしょう。

知財戦略コンサルティングを依頼するポイント・注意点

最後に、知財戦略コンサルティングを専門家に依頼する際のポイントと主な注意点を紹介します。

  • その専門家の力量を見極める
  • 具体的なサポート内容を確認する
  • 知財戦略の策定を「丸投げ」できるわけではない
  • 料金の安さだけで選ばない

その専門家の力量を見極める

知財戦略コンサルティングを依頼しようとする場合、「弁理士」というだけで選ぶことはおすすめできません。弁理士は知財の専門家であるものの、戦略策定のレベルは弁理士によって大きく異なるためです。

そのため、まずは単発で相談をしてその弁理士の戦略的思考力などを見極めたうえで、慎重に選定することをおすすめします。

具体的なサポート内容を確認する

知財戦略コンサルティングといっても、具体的なサポート内容は専門家によってまちまちです。そのため、その専門家が具体的に何をしてくれるのか、よく確認したうえで依頼することをおすすめします。

知財戦略の策定を「丸投げ」できるわけではない

専門家にコンサルティングを依頼したからといって、知財戦略の策定を「丸投げ」できるわけではありません。

知財戦略は、自社の経営ビジョンや経営戦略があってこそ威力を発揮するものです。専門家に「丸投げ」をして策定できるような戦略では、絵に描いた餅でしかありません。

あくまでも主体となるのはクライアント自身であり、専門家はその策定をサポートする立場であることを理解しておきましょう。

料金の安さだけで選ばない

知財戦略コンサルティングには高度な専門性を要するうえ、決まった「正解」があるわけでもありません。また、専門家によって具体的なサポート内容なども異なるため、料金を単純に比較できるものでもありません。

そのため、経営コンサルタントを料金の安さで選ぶことがナンセンスであるのと同様に、知財戦略コンサルティングを依頼する専門家を料金の安さで選ぶことも避けるべきでしょう。

まとめ

知財戦略コンサルティングの概要や企業が知財戦略を策定する主なメリット、知財戦略コンサルティングを依頼する専門家の選び方などについて解説しました。

企業が知財戦略を策定するメリットは小さくありません。的確な知財戦略を策定することで漏れのない的確な知財獲得が可能となり、自社の競争力や交渉力を高めることにつながります。また、他者の攻撃にも対抗しやすくなるでしょう。

とはいえ、的確な知財戦略を策定するには自社の状況を客観的に把握する必要があるほか、知的財産に関する理解や戦略的思考が不可欠です。そのため、自社だけで戦略を策定することは容易ではありません。

そこでおすすめなのが、戦略的思考を有する弁理士にサポートを受けることです。弁理士にコンサルティングを受けることで、自社の経営戦略に即した的確な知財戦略が策定しやすくなります。また、自社が獲得すべき知的財産についてもアドバイスが受けられるため、自社の強みをより発揮しやすくなるでしょう。

なお、上記の説明では、「戦略」という観点から解説しましたが、むしろ知的財産で重要になるのは「戦術」です。戦略を実現するための具体的な手段が戦術であり、有効な戦術を講じられないようなら、戦略は絵に描いた餅にすぎません。興味のある方がおられたならば、個別対応の形で「知財戦術」について解説したいと思います。

中辻特許事務所の代表である中辻史郎は、陸自幹部技術高級課程を経ている異色の経歴を有しており、この経験を活かした戦略的思考に特に強みを有しています。自社の発展に寄与する知財戦略の策定をご希望の際は、中辻特許事務所までまずはお気軽にお問い合わせください。