税理士や弁護士はなんとなくイメ―ジが沸くものの、「弁理士」がどのような職種であるかわからない人も少なくないようです。一般個人が弁理士と関わる機会は少ないため、無理もないのかもしれません。しかし、弁理士は知的財産に関する国家資格です。
では、弁理士とはどのような専門家なのでしょうか?また、弁理士はどのような基準で選定すればよいのでしょうか?今回は、弁理士の選び方や依頼時の注意点などについてくわしく解説します。
弁理士とは
弁理士とは、知的財産を専門とする国家資格です。知的財産とは、「人間の知的活動によって生み出されたアイデアなどの創作物」などのうち、「 財産的な価値を持つもの」を指します。知的財産を権利化したものに、特許権や商標権、実用新案権、意匠権などが挙げられます。
弁理士は、知的財産(知財)戦略の策定や出願前の調査、実際の出願手続き、侵害時の対応などの場面において力強いパートナーとなる存在です。
参照元:知的財産権とは(日本弁理士会)
弁理士の選び方のポイント
弁理士にはじめて依頼しようとする際、どのような基準で弁理士を選べばよいか迷ってしまうことでしょう。ここでは、弁理士の選び方の主なポイントや弁理士を選ぶ視点をまとめて解説します。
- 弁理士の専門性
- 報酬が適切か否か
- 打ち合わせの利便性
- 利益相反にならないこと
- コミュニケーションの取りやすさ
- 常に最新情報をチェックしていること
- 外国の事情にくわしいこと
- 企業の成長をともに目指してくれること
弁理士の専門性
1つ目は、弁理士の専門性です。
弁理士である以上、すべての知的財産に関して基本的な知識を有していることは大前提です。しかし、弁理士によって特に力を入れている知的財産の種類が異なります。
たとえば、商標権に特化した弁理士がいる一方で、特許権や実用新案権に強みを有する弁理士も存在します。また、特許権などでは、ある業種や分野に特化している場合もあります。
そのため、自社が特に保護したい知的財産に強い弁理士を選定するとよいでしょう。
報酬が適切か否か
2つ目は、報酬が適切であるか否かです。
弁理士の報酬は自由化されており、法令などで報酬が一律に定められているわけではありません。事務所によって、弁理士報酬は異なります。そのため、あらかじめ報酬額を確認したうえで依頼するとよいでしょう。
なお、弁理士は高度な専門性が求められる専門家であり、報酬は「安ければよい」というものではありません。依頼する弁理士の手腕によっては、自社が希望する権利が取得できない可能性もあります。
そのため、報酬額を事前に確認することは重要ではあるものの、報酬額の低さだけで弁理士を選ぶことは避けた方がよいでしょう。特に、特許権を取得できたとしても、権利行使に耐えうる特許明細書であるのか、どれほどの変形例を充実させているかも大切です。アイデアの重要性を踏まえて、依頼する弁理士を変えることも重要です。
打ち合わせの利便性
3つ目は、打ち合わせの利便性です。
特に、自社の知財戦略の立案段階から弁理士のサポートを受ける場合には、弁理士と密に連絡を取り合うこととなります。そのため、弁理士を選ぶ際は、打ち合わせの利便性も考慮するとよいでしょう。
具体的には、距離的な近さや連絡手段などです。
たとえば、自社が「相談や打ち合わせは会って行いたい」と希望する場合は、遠方であり、かつ出張をしない弁理士は選択肢から外れます。一方で、「効率を重視したい」と考えている場合は、オンラインでの打ち合わせなどに対応している弁理士を選定することとなるでしょう。ここで、オンラインの場合は、発明者が説明をしている間、弁理士は発明者の挙動を正確に把握することができません。弁理士は、発明者が確信を持って話しているのか、そうでないのか等を見極めることも大切ですので、オンラインと対面は使い分けることも大切です。対面を重視するなら、距離的な近さも大きなウエートになると思います。
利益相反にならないこと
4つ目は、利益相反とならないことです。
弁理士は守秘義務を負っており、自社の機密情報を他社に漏らすことはありません。しかし、万が一の事態を避けるため、競合他社の出願代理などをしている弁理士への依頼は避けることが望まれます。弁理士は、弁理士法によって利益相反となる業務を請け負うことができません。
コミュニケーションの取りやすさ
5つ目は、コミュニケーションの取りやすさです。
弁理士は、自社における知的財産保護や知財戦略立案のパートナーとなるべき存在です。そのため、自社との二人三脚が期待できる弁理士を選ぶとよいでしょう。人と人との付き合いになるため、当然ながら相性があります。
たとえば、「こちらの質問にきちんと答えてくれるか」「レスポンスの速さは適切か」などが弁理士を選定する1つの視点となります。また、非常に優れた弁理士であっても、自分には合わないというときもありますので。
常に最新情報をチェックしていること
6つ目は、常に最新情報をチェックしているか否かです。
知的財産に関する情報は、日々刻々と変化します。また、出願や権利を維持する手数料の減免制度が設けられたり、廃止されたりすることもあります。企業にとって有用な知財サポートをするためには、弁理士は常に最新情報をチェックしておかなければなりません。
そのため、古い情報のまま知識の更新が止まっている弁理士ではなく、意識的に最新情報を仕入れている弁理士を選ぶことをおすすめします。特に、昨今の技術進化は凄まじいため、生成AI等の各種の最先端技術に強く、少しでも先を読める弁理士は貴重です。特許権の存続期間は20年ととても長いからです。
外国の事情にくわしいこと
7つ目は、外国の事情にくわしいことです。
日本国内における特許権や商標権は、日本国内でのみ効力を有するものです。たとえばアメリカでも保護を受けたい場合は、アメリカの制度に従って別途出願をしなければなりません。
そして、インターネットの発達などにより、グローバル化は急速に進行しています。そのため、企業が知財戦略を練る際は、外国における保護も念頭に置いて検討すべきでしょう。
特に自社が海外進出を検討している場合には、外国における知財の状況にくわしい弁理士を選定することをおすすめします。
企業の成長をともに目指してくれること
8つ目は、企業の成長をともに目指してくれることです。
企業にとって、特許権の取得や商標権の取得自体はゴールではないでしょう。これらは、その後の企業成長などを目指して行うものであるはずです。
そのため、特に知財戦略の立案段階などからの依頼を検討している際には、企業の長期的な成長をともに目指してくれる弁理士を選定することをおすすめします。
弁理士の選び方や依頼時の注意点
弁理士を選ぶ際や依頼する際には、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?ここでは、弁理士の選定や依頼時における主な注意点を2つ解説します。
- 弁理士に「丸投げ」できるわけではない
- 報酬の低さだけで選ばない
弁理士に「丸投げ」できるわけではない
弁理士に依頼したからといって、会社がその後はまったく関与せず、弁理士に「丸投げ」できるわけではありません。なぜなら、会社のほうが自社の技術や自社における今後の展望に詳しいからです。
たとえば、特許出願において「A」という発明をそのまま出願書類に記載して出願するわけではありません。「A」という発明のうち特許となり得る要素を抜き出したり、自社の今後の展望を見据えて核となる発明を漏らさないよう選定したりするステップが必要です。
そうであるにもかかわらず、丸投げをして会社側が関与しなければ、的外れな出願をしてしまいかねません。会社と弁理士で密にコミュニケーションをとることで、的確な出願が可能となることを理解しておきましょう。
報酬の低さだけで選ばない
先ほども触れたように、報酬の低さだけで弁理士を選ぶことはおすすめできません。なぜなら、弁理士は高い専門性が求められる専門職であり、依頼者から言われるままに書類を清書するようなものではないためです。
よい弁理士は、権利化できる可能性や企業の将来などを見据えて、出願する知的財産の範囲の選定やアドバイスなどを行います。そのため、一般的な相場と比較して高過ぎる弁理士は避けた方がよい一方で、費用の安さだけで選ぶことも避けるべきでしょう。
費用の安さだけで選定してしまった場合など、弁理士の選定に失敗した場合に生じ得るリスクは、次でくわしく解説します。
弁理士の選定が非常に重要である理由
自社の知的財産を適切に保護するためには、弁理士の選定が非常に重要です。ここでは、弁理士の選定に失敗した場合に生じ得る主なリスクから、弁理士選びが重要である主な理由を解説します。
- 権利を取得できない可能性があるから
- 不要な権利を取得してしまうおそれがあるから
- 調査に漏れがあり権利侵害をするリスクがあるから
- せっかくの権利が価値の低いものとなるおそれがあるから
権利を取得できない可能性があるから
弁理士選びに失敗すると、権利を取得できないリスクが生じます。
弁理士は依頼者のために最善を尽くすうえ、国家資格に合格できるレベルの深い知識を有しています。とはいえ、なかでも的確な特許出願をすることは困難を極め、脳外科医のように手腕が問われるものです。
その技術分野にくわしい弁理士を適切に選定することで、権利を取得できる可能性を高めることが可能となります。
不要な権利を取得してしまうおそれがあるから
弁理士選びに失敗すると、不要な権利を取得してしまうリスクが生じます。
特許などの権利は、取得できそうなものをなんでも取ればよいというものではありません。不要な権利を取得してしまうと、出願や権利の維持にコストがかかります。
たとえば、Aについて出願すればBも保護される帰結となるのであれば、Bについて個別に出願する必要はないでしょう。また、自社にとって利用価値が低く、たとえ他社に権利を取得されても自社の開発などにさほど影響しない権利であれば、出願しないことも検討できます。
適切な弁理士に依頼することで、出願する権利の選定段階か助言を受けることが可能となります。
調査に漏れがあり権利侵害をするリスクがあるから
弁理士選びに失敗すると、調査に漏れが生じて他者の権利を侵害するリスクが生じます。
技術開発や実施などをする前には、これが他者の権利を侵害しないか否か調査すべきであり、これも弁理士における業務範囲の一つです。しかし、特許など知的財産の調査には高い専門性を要し、漏れが生じる可能性が否定できません。
調査に漏れが生じて他者の権利を侵害すれば、差止請求などがなされ方向転換を余儀なくされる可能性が生じます。
高い調査技術を有する弁理士を選定して依頼することで、調査漏れのリスクを最小限に抑えることが可能となります。
せっかくの権利が価値の低いものとなるおそれがあるから
弁理士選びに失敗すると、せっかくの権利が価値の低いものとなるリスクが生じます。
特許や商標などの的確な出願は、容易ではありません。しかし、特許出願で範囲に不要な限定を付けてしまったり商標出願で必要な区分が選択されていなかったりすれば、使い勝手が悪く価値の低い権利となるおそれがあります。
企業の成長を見据えた知財戦略を立案できる弁理士に依頼することで、企業にとって価値の高い的確な権利が取得しやすくなります。
弁理士の探し方
弁理士を選ぶ以前に、弁理士に心当たりがない場合も少なくないでしょう。最後に、弁理士の探し方について解説します。
- インターネットを利用する
- 他の企業などから紹介を受ける
- 弁理士会から紹介を受ける
- 知財イベントやセミナーに参加して探す
- 他の士業から紹介を受ける
インターネットを利用する
1つ目は、インターネットで検索をして探すことです。
事務所のホームページを開設している弁理士であれば、その弁理士の得意分野を判断しやすいでしょう。
他の企業などから紹介を受ける
2つ目は、他の企業などから紹介を受けることです。
紹介によることで、少なくともその企業が「よい」と感じている弁理士と出会いやすくなります。
弁理士会から紹介を受ける
3つ目は、弁理士会から紹介を受けることです。
弁理士は「弁理士会」という組織に所属しており、弁理士会に問い合わせることで弁理士の紹介を受けられます。この場合には、求める弁理士の特徴や専門分野などをあらかじめ定めておくことで、ミスマッチの可能性を引き下げやすくなるでしょう。
知財イベントやセミナーに参加して探す
4つ目は、知財イベントやセミナーなどに参加をして、登壇者などから依頼先の弁理士を探すことです。
特に、海外への出願など高度な専門性を有する弁理士を探している場合には、この方法が有力な選択肢となります。ただし、登壇している弁理士は多忙であることも多く、依頼を受けてもらえない可能性がある点には注意しなければなりません。
他の士業から紹介を受ける
5つ目は、弁護士や税理士など他の専門士業から紹介を受けることです。
多くの士業は、士業同士の横のつながりを有しています。信頼している士業に相談することで、より専門性が高く信頼できる弁理士に出会える可能性が高くなります。
まとめ
弁理士の選び方のポイントや依頼する際の注意点、弁理士の探し方などを解説しました。
弁理士は、知的財産に関する専門家です。しかし、なかでも特許は高い専門性を要し、依頼する弁理士を誤れば希望する権利が取得できなくなったり調査漏れから他社の権利を侵害したりするリスクが生じます。
そのような事態を避けるため、弁理士は専門性を重視して選定するとよいでしょう。ほかに、打ち合わせの利便性やコミュニケーションの取りやすさなども弁理士を選定する重要な視点だといえます。